人工島にて地位を極めている立場に当たるのは、電理研統括部長ばかりではない。電理研は社会基盤を成すメタリアル・ネットワークの管理運営やその他の科学技術でも人工島の技術面を支えているが故に、そのトップが人工島における支配者と成り得ているに過ぎない。 人工島とは厳密には国家ではなく、経済特区を運営する複合企業体である。企業である以上、その運営には株主の意向が強く働く。有力な株主達は評議員として選ばれ評議会を形成し、議会制民主主義の体裁を整えている。その他の株主達の意見を集約する機会も、諮問委員会によって与えられていた。 評議会トップの役職は、評議会書記長である。基本的に評議員の間から立候補を募り選出され、任期は4年で再選もある。 2061年現在、評議会書記長の座に就いている人物は、エリカ・パトリシア・タカナミと言う名の女性である。 彼女の経歴は、20年前の人工島入植開始に合わせて開催された人工島プリンセスコンテストに始まる。当時大学生だった彼女は、このコンテストで見事プリンセスの座を射止めた。そこから生まれた彼女の通称は「ファースト・プリンセス」である。 それ以降、このコンテストは開催されていない。今年7月の20周年式典に合わせて、20年振りに開催されようとはしていたが、その直後からの動乱に紛れて最終審査が中断したままとなっている。故に、人工島プリンセスの地位にあるのは、未だこのタカナミ女史のみだった。 このコンテストは単なるミスコンではない。容貌の美しさが問われるのは当然だが、それは評価基準のひとつに過ぎない。立ち振る舞いや知性も同様に重視される。 だからこそ、ファースト・プリンセスであるタカナミは、それを足がかりに政治活動へと移行する事が出来たのである。人工島外で既に確固たる地位を固めていた年長者達にも臆する事なく自らの立場を示し、最終的に書記長にまで長じた。 現在では彼女は40代ではあるが、その美しさは衰えていない。入植20年となる人工島ではそろそろ世代交代の時期にさしかかってはいるが、それ故に評議員の年代構成にはばらつきが見られ始めていた。 それは様々な立場の人間が存在すると言う意味でもあり、意見集約が難しくなってきているとも言える。そんな評議員達をタカナミ書記長は取り纏め、困難を乗り越えてきた。 そんな彼女の任期は残り少ない。来年初頭には書記長選が執り行われる。1期目の彼女には再選される権利が与えられており、当然ながら再度立候補する運びとなっていた。 |