フジワラアユムと言う名のダイバーは、「電理研委託メタルダイバートップ3」を自認している。弟のユージンに言わせれば「何でそんなに自信満々かなあ?」なのだが、アユム自身はこれでも控えめな自己評価のつもりだった。
 本当ならば、彼はNO.1を名乗りたいのである。しかし現在の彼には、それは過大広告との自覚があった。彼や弟よりも遥か先を臨むメタルダイバーの同僚が居るのだから。そのダイバーとはそれなりに親しい――と言うか、アユムはリアルのダイビングショップにおいて、そのダイバーの名目上の雇用主である――事もあり、賞賛こそあれ妬みは一切沸いてこない。
 だからこそ彼は「上から3位以内」を名乗っている。3人纏めて電理研委託メタルダイバーを代表してりゃいいじゃねえか――これは若干あざとい考え方ではあるし、それに準じた言葉にて弟から突っ込みを食らっていた。
 アユムが知るそのダイバーの名は、波留真理と言う。
 彼は電理研における波留の存在価値を理解しているつもりだった。世界トップクラスと評価しても良いずば抜けたメタルダイブの技量を持ち、一個人としても新旧統括部長と親しい。電理研から役職こそ与えられていないものの、実質的な委託ダイバーの統括者だった。現状では彼の存在は、メタルダイバーや彼らを雇用する人間達に浸透してきていると思われた。
 ――そのはずなのだが、今回アユムが弟共々召集された電理研内のブリーフィングルームに、波留の姿は見当たらない。その事実を認識したアユムは首を捻っていた。
 彼と弟の元に届いたのは、統括部長代理直々からのメールだった。曰く、以前依頼して完遂して貰った鮫型思考複合体の一件に進展が見られたため、また手伝って頂きたい――そんな内容だった。
 アユムにしてみたら、今思えばその時点で妙だった。波留が電理研に復帰して徐々にその地位を固めて行った以降、何らかの依頼があればまず波留からメールが届いたものだったからだ。
 勿論依頼毎にきちんと契約を交わす以上、電理研とのやり取りも存在する。しかしその前段階としての話を持ちかけてくるのは、決まって波留だった。お互い気心が知れた間柄であるため、まずは3人で話をした方が面倒ではなかったからだ。
 現統括部長代理たる蒼井ソウタもそれを黙認していた。それが9月以降の体制だったはずだ。しかし今日、召集されたメタルダイバーの面々を見ても、波留の姿はない。
 改めて思い起こせば、最近電理研内で姿を見かけない気がする。ずっと忙しかったし、休暇でも取ってるのか?――アユムはそんな事を思っていた。
 波留の不在に思いを馳せつつ、無遠慮に値踏みするように他のメタルダイバーに視線を送っていると、弟に窘められる。しかし兄は全く意に介さない。
 電理研の依頼を受けて、彼らは長い。メタルダイバーとしてかなりのキャリアを誇っている。
 そんなアユムは、目立ったダイバーの顔には覚えがある。メタルダイブとはチームで行う事も多々あるため、同様に雇われたメタルダイバーと顔を合わせて会話した経験もあるからである。
 もっともアユムが記憶しているのは、容貌のみである。それもイメージとして生脳に定着しているに過ぎない。見覚えがある人物が居たからと言って、名前を挙げろと言われると困ってしまうのが彼だった。
 そこをフォローするのが弟である。メタル経由で以前交換したアドレスなどを検索すればいいだけなのだが、その手間すら兄は惜しむのだった。
 ともかくアユムがこのブリーフィングルームに召集された面子を見る限り、初心者お断りとの前提がまざまざと提示されている。メールで事前に伝えられたあの鮫型思考複合体絡みの案件ならば、それも判るとアユムは思う。彼ら兄弟は実際にあの鮫に苦労させられたのだ。
 そんな中でも、アユムは以前のそのチームの面々で居ないのが波留だけではないと気付いた。あいつも居ないのかよ――彼の脳裏には、銀髪の少年の姿が思い起こされていた。
 大して会話を交わした訳でもない。あの案件においても正直技量が足りていたとは思えない。事実あの少年は自らに与えられた任務を完遂出来ず、チームを危機に晒しかけたのだ。
 それを思えば、あの少年はこの案件から外れる要素は存分にある。
 ――ま、レベル足りねえならしゃあねえな――アユムは苦笑気味にそう結論付けた。
 あの少年がやらかした前回の案件での失態は、客観的なレポートと言う形式で電理研に記録されているはずだった。それを鑑みて、また足を引っ張られてはたまらないと電理研が判断したのだろうとアユムは考えた。
 ともかくアユム含めた召集ダイバーがリアルの席に腰掛けて待っていると、メールでの指定時間きっかりに黒髪の若者が入室してくる。
 その若者は電理研の制服に白衣を羽織っており、杖を突き右足を引きずっている。そしてその傍らに、公的アンドロイドが付き従っていた。室内のダイバー達は、彼らに馴染みがある。電理研統括部長代理とその秘書用アンドロイド――その認識があった。
「――皆さんには多忙な中、我々の案件を受けて頂いて感謝します」
 部屋の前方に位置する壇の前に立った若き部長代理は畏まり、そう発言した。そして今回の案件について、説明してゆく。

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