その時、不意に強い海風が桟橋を吹き抜けて行った。強風が、そこに立つ、年の頃は違うまでもふたりの少女の髪を大きく揺らしてゆく。
 ミナモは髪がなびき乱れるのをそのままにしていた。頭のリボンが揺れて歪み掛ける。頭に伝わるその揺れも気にならない。彼女は真っ直ぐと、目の前に立っている少女の顔を見やっていた。
 風の吹き抜ける音が耳元で煩い。何かを訴え掛けようとしているかのようだった。それを感じつつも、ミナモは口を開く。彼女には、その少女に尋ねたい事があった。
「――…ねえ、風さんってまさか…普段からお話してるの?」
「うん。そうだよ?」
 少女は当然のように頷いていた。そのついでに、ちょっと辛くなってきたのか、胸を反らせる体勢を止めた。足元を僅かにふら付かせるが、すぐにそれも収まる。屈み込んでいるミナモに視線を合わせて、見上げてきた。
 ミナモは少女の視線を受け止めつつ、確認を行ってゆく。それは彼女の記憶の中にある事柄だった。
「でも、あなたのお婆さんは、そんな事ないんだよね?」
「そうだね。判ってくれなくてちょっと寂しい。こんなにはっきりお話出来るのに」
 言いながら、少女はしょんぼりとした表情になる。どうやらこの少女にとってはそれは当然らしいが、血縁者である祖母にはそうでもないらしい。
 ミナモは記憶を辿る。あの7月29日の夜、この病棟の状況を思い起こそうとする。あの時は空気中の何かが輝き、そして声のようなものを皆が訊いたはずだった。そしてメタルが停止したその後も――。
「お婆さん、メタルが落ちた日には確か…」
「…あ、その時には、私みたいにお話出来たみたい。風さんとは言ってないけど、きっとそうだよ」
 その場に居なかった少女にとっては伝聞であろうが、それを思い出したらしい。そこにある事実に、表情を明るくした。
 そしてミナモにとって、少女のその台詞こそが全てだった。彼女の中で、全ての事実が繋がる。推測が確信へと変わっていた。
 そうなってしまうと、彼女は弾かれたように動く。少女の手を取り、大きく頷いて見せた。そして大きな声を上げ、挨拶をする。
「ごめん、私、行かなきゃ!」
 叫ぶようにそう告げたミナモは、一礼して少女の手を離す。
「あ、おねえさん」
 年長者の勢いに押されているのか、手を離された少女はぽかんとしていた。そんな彼女をよそに、ミナモは勢い良く顔を上げた。上体を伸ばし、踵を返す。挨拶は終わったつもりらしく、通路へと走ってゆこうとしていた。
 ふと、そこで振り返る。少女を見やった。笑顔を浮かべ、言葉を送る。
「ありがとう!これで判ったよ!」
「…え?」
「お婆さん達、これからはきっと大丈夫だから!」
 ミナモは勢い良く走り出す。その最中、大きく手を挙げ、テラスの方へと振って見せていた。
 残された少女はやはりぽかんとしていた。海を背後にして、走り去るミナモを視線で追っている。そんな中でも海風は強弱をつけつつもその場に吹き抜けていた。
 
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