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電理研には、リラクゼーションルームが何種類も存在している。 これは個人によってリラックスする条件が異なるために、様々な光景を擬似的に構築した空間を用意したためである。その全てにおいて、メタルには出来る限り頼っていない。メタルからの接続を切って脳を休息させるための空間なのだから、メタルによる仮想空間体験では意味がないからだ。 それでも青空などは擬似的に作り出す事は難しくメタルを利用する他ないが、この場合は単なる映像投影であり室内の人間の脳には一切干渉してはいなかった。 ここには様々なリラクゼーションルームが存在はしているが、そこまで現実離れした空間を利用しようとする人間はあまり居ない。職員に定期的に与えられる基本の安息義務時間は30分未満であり、あまりその世界に浸っている時間もないからだ。 そのために職員達の大半に良く利用される空間は、室内庭園めいた部屋だった。地上にある公園のようにベンチがあちこちに配列され、建てられた柱や屋内部分などに蔦などの天然の緑が配置されている。勿論植え込みなども存在し、電理研の外壁としてのガラス状の壁面には青空が投影されていた。 小走りのミナモがそのまま飛び込んできたそのリラクゼーションルームには、白衣姿の職員達がまばらではあるが結構な人数が居た。ミナモの視界には職員の姿が何人も入ってきているが空間自体が広大なため、そこまで人口密度は高くないのだ。 彼らは各々安息義務を取っていた。ベンチに腰掛けてうとうとしている者もいれば、飲物を買ってきて落ち着いている者もいる。何人か連れ立ってゆき、世間話で暇を潰している者達もいた。地上にある公園で和んでいる社会人とやっている事は然程変わっていない。 ミナモはそんな広大な空間を、きょろきょろしながら歩き回っている。彼女の目当てとした人物を探し出そうとした。 ――あの人ならば、こんな白衣だらけの人々の中では目立つはずだ。何たって、あんなに髪が長いのだから――ミナモはそんな事を考えている。その脳裏にはひとりの青年の姿が思い浮かんでいた。 しかし若返った今、どんな格好をしているのだろう。老人だった頃には普段は私服であっても、ダイブ時にはどういう事情か病院服に着替えていたものだった。 今はどうなのだろう。ミナモが想像を巡らせてゆくと、同僚としてのフジワラ兄弟の姿が連想された。あのようなツナギを着ているのだろうか。あの長い髪には、そのようなラフな姿はお似合いであるように彼女には思えた。 色々と想像を閃かせてゆくと、心なしか晴れやかな気分になる。 あの人とは、会える時には必ず会えるはずだった。 ミナモはそう確信していたし、だからこそ今まで特に連絡を取ろうとはしていなかった。サヤカやユキノはそれを妙に思っているようだったが、彼女としては平気な事だった。 だって、その時が来れば、何時だって繋がる事が出来るのだから。 今は、その時なのだろうか。 こうやって弁当を作って来ても、今日だって約束もしていないのだから、出会える確証などない。それでも出会えたなら、それは偶然ではなく必然なのだろうか? 白衣の人々を擦り抜けて、少女は公園タイプのリラクゼーションルームを進む。安息義務をこなし終えて出て行く職員や、入れ替わりに安息義務のためにやってきた職員など、出入り口付近では人口密度が若干高い。その付近をミナモは歩いてゆく。 と、ミナモには、そこに青色のツナギを着ている人物が見えた。 その時確実に、自らの心臓が高鳴る音を彼女は聴いた。嬉しさに頬が赤くなる。心臓の鼓動に合わせるように、そこに向かう足が速まった。 「――」 その方向に手を挙げ、彼女は何かを言い掛けた。しかし、その光景が何であるのかを瞳が捉えた瞬間に、声が出てこなくなった。挙げかけた手が途中で止まり、固まる。笑顔を浮かべたままのその顔が凍っていた。 「――よう、嬢ちゃん。おひさー」 「元気だった?」 安息義務のためにリラクゼーションルームに入ってきた、制服めいた青いツナギを着たメタルダイバーであるフジワラ兄弟が、ミナモに気付いて笑い掛けていた。 |