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夏休みも終わり、平日の昼間となると、中央図書館で紙媒体の書籍を探しているのは波留程度しか居なかった。幼児などが学校の授業で訪れる事もある施設だが、今日はそう言う日でもなかったらしい。それに子供向けの書籍はまた別棟に蔵書されている。 図書館は吹き抜けが中央に貫通していて、それを取り囲むように階層が作られている。上の方の階にある本棚から書籍を取り出しつつ下を見下ろすと、一番下の階にある司書カウンターが目に入った。 そこでは暇そうな女性司書が席に着いていて、つまらなそうな表情で頬杖を突きつつ、その手の中でやけに器用にペンを回している。今日は利用者が殆ど居ないためにこなす業務もない閑職状態のため、暇で暇で仕方がないのだろう。 前世紀の図書館のような端末での蔵書検索に頼りつつ、波留は人工島近海の海洋データを掲載した書籍を探してゆく。流石に紙媒体の書籍となると発行年が古いものが多く、立派なカバーの表紙のものも古ぼけて来ていた。 ある程度の書物を腕の中に重ね上げた段階で彼は探索を終了する。それらを読書室まで持って行って席に着き、調べ物を始めた。 ・ ・ ・ 書架と読書室との往復を数回繰り返した後、手ぶらになった波留が階下に戻ると、カウンターに着いている司書はぼんやりと中空を見上げていた。 このような、第一に未電脳化者のために存在する施設に従事する人間と言えども、未電脳化者とは限らない。彼女自身は人工島住民の多数派同様に電脳化していて、暇潰しにメタルに接続して何かしているのだろうと波留は思った。 何せ、彼が図書館入りしてもう数時間が経過していると言うのに、他に読書している人間の姿が見えないのである。この島では未電脳化者とはそこまで少数派かと内心ぼやいてしまう。 しかし、カウンターの前に人間が立っても気付かないと言うのはどうなのだろう。メタルに常時接続出来る環境で、外部から見ても接続中かどうかは判別出来ない仕組みとなっているのも困り者だと、彼は半ば苦笑した。 「――あの」 波留は司書に呼びかけつつ、カウンターに右手を置いて軽く拳で叩く。こつんと言う音と波留の呼びかけとに司書はようやくリアルに意識が戻ってきたらしい。一瞬慌てた風に軽く飛び上がり、そして目の前に立つ波留に視線をやった。 「…何でしょう?」 「こちらの蔵書について、少々調べて頂きたい事があるのですが…」 波留はカウンター備え付けのメモとペンを取り、司書に説明を始める。 未電脳化者も備え付けの端末で蔵書検索は可能だったが、電脳を介して行う検索と較べてフレキシブルなものではない。電脳化している人間は、自らの生脳から導き出される検索ワードをそのまま図書館のメタルに流し込み、柔軟な検索をする事が可能だった。 波留はそれをこの司書に依頼しようとしていた。言わば、蔵書検索端末の代わりをして貰おうと言う事である。奇妙な話だが、それもまた司書の役割だった。 柔軟な検索を求めるとなると、必然的に専門用語を交えた会話になりがちである。それは様々な専門に対して門外漢たる司書への負担も大きくなるため、カウンターに備え付けた筆記用具を使って用語を書きつつ説明を行うのが常だった。 波留の説明が簡潔かつ明瞭であり、司書もそう言った仕事に慣れていた。そのために波留の説明を1分足らず訊いた段階で、彼女はカウンター備え付けのコンソールに手を下ろす。そしてメタルへの検索の旅に出発していた。 |