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インフィニティ談義も一段落し、女子中学生の間食タイムも落ち着きつつある。マスターもカウンターの向こうで作業をしていた。 サヤカとミナモは注文した品を食べ終わり、サービスとして持ってこられた新製品候補のフルーツ系ミックスジュースを口にしていた。そしてユキノはジャンボパフェをいよいよ完全に食しつつある。乙女の胃袋は異次元空間に通じている事もあるのだろうかと訊きたくなる程の食べっぷりではあるが、ふたりの中学生とこの店のマスターは既に慣れてしまった光景でもある。 ミナモは自分の前に置かれたコップに刺さったストローを軽くいじった。様々なフルーツが混在しているらしく、良い香りをほのかに漂わせて来る液体をゆっくりと掻き混ぜる。コップの中で氷がぶつかり合い、澄んだ音を立てていた。 「夏休み中は色々忙しくてさ。介助の勉強もしてたし、たまには差し入れ持って行ったりして」 「差し入れって、お兄さんとかに?」 ユキノはミナモの台詞にそう訊いていた。言いつつも彼女は、パフェの大きな容器の奥深くに専用スプーンを突っ込み、底にあるフレークやクリームなどを穿り返しては口に運んでいる。流石に少女の嗜みとしては、容器を舐めるまではやらないが、スプーンの届く箇所には食べられるものを残さない気概を持っているらしい。 「うん、ソウタとお父さんにも。何時行くって決めてる訳じゃなかったけど、行く時には連絡して。明日、そろそろ行こうかなって思ってる」 「へー………」 座席であるソファーに深く腰掛けたサヤカが長い声で相槌を打っていた。右手を伸ばしてミックスジュースに刺さったストローを掻き回す。 そして勢い良く彼女は前のめりになった。向かいに座っているミナモに対し、にやにやと笑ってみせる。ストローから離した右手で、ミナモを指差して言った。 「――で、波留さんには持って行くの?」 「…何でそこで波留さんなのよ」 至近距離で指差されたミナモは、若干鼻白んだような顔をする。サヤカに視線だけ向けたまま摘んだストローに口をつけ、軽くジュースを吸い上げた。 「だって波留さん、電理研でメタルダイバーやってるんでしょ?」 「そうだと思うけど、今まで会えてないなあ。リラクゼーションルームまでたまに行ったけど、居なかったよ」 「それ、都合が合ってないだけじゃんきっと」 「うん…」 この1ヶ月間、たまに差し入れを持って行ったとは言え、その頻度は1週間に1回程度だった。単純に考えてミナモはあの事件以来、4,5回程度しか電理研を訪れていない事になる。 そしてその際にもエントランスのみ訪れてホロンに荷物を預けて帰る事もままある。統括部長代理の職を全うしているソウタや、現在の激震地である管理部でメタルのメンテナンスを担っている父の衛は、多忙だから顔を出せない事も多いからだ。 となると、ミナモは電理研職員や委託ダイバー達が安息義務をこなしているリラクゼーションルームまで行く日ばかりでもなかった。更に言うならば、暇を見つけて兄か父と会ったにせよ、差し入れを渡して少しばかり会話するだけなのだから、その部屋に何時間も居座る訳もない。 結果的に30日強の中、ミナモが何の約束もしていない委託メタルダイバーに出会うきっかけを持てたのは、のべ2,3時間にも満たないだろう。確率の問題として、それだけの時間では望む人間に出会う事はかなり難しいだろう。 サヤカはミナモをじっと見ていた。指差す右手を下ろし、ストローを摘む。軽く吸い込んだ後、口を離す。 それからそっとストローを持ち上げた。搾り立てのミックスジュースらしく、完全な液体ではなく若干の固形物がある。それをジュースの水面に幾分垂らしつつ、さっとミナモに先端を突きつけた。 指に代わってまた物を突き付けられたミナモは、軽く腰が引ける。色付いた液体を纏わりつかせたままのストローの先端を見やり、そしてサヤカを見た。 サヤカは片眉を上げて笑っている。悪戯っぽい笑みを顔に作り出していた。 「折角だから、波留さんのためにもお弁当でも作って、持って行ってあげたらいいんじゃない?」 「…え?」 ミナモは目の前のサヤカの台詞にぽかんとした表情になる。何を唐突に言い出すのだろうと思った。しかし彼女の隣に座っているユキノも、笑顔で頷いていた。 「そうだよ、ミナモちゃん。もし明日も波留さんに会えなかったら、自分の晩御飯にすればいいんだし。お弁当作っても無駄にはならないよ」 「…そう言う問題なのかなあ」 ミナモは暢気に言う隣の少女に、軽く引き攣ったような笑顔を浮かべて言った。――どうしてこう、食事方面の話に持って行こうとするんだろう。愚問だとは判っていても、ミナモはユキノに対してついついそんな事を思ってしまう。 それにしても考えが纏まらない。ミナモは気を紛らわせるように、軽く首を左右に振った。褐色の髪がふるふると揺れ、頭上のリボンもそれにつられて動く。 そしてストローに口をつけ、ジュースを吸い上げた。氷に冷やされた液体が口の中に到達し、それを喉に送り込む。今までのプリンアラモードとはまた違う甘い味が感じられた。 ――でも、悪い考えじゃないのかもしれない。 ミナモはそんな事を思った。元々弁当を2人分作るのだから、そこにもうひとり分を追加しても大して手間は変わらなかった。そしてもし出会えないとしても、ユキノが言うように自分の晩御飯にすればいいのである。それは、今までの差し入れの時とそう変わらない夕食の光景だった。 となると、何を作ろう。お弁当だから変に気合の入ったものは作れないけれど、それでも何か喜んで貰えるようなものを入れてみたい――彼女はストローを口に含みつつ、その脳内では弁当のメニューを考えていた。まだまだ彼女のレパートリーは少ないけれど、それだけに奇抜な料理は作ってはいない。まず料理に慣れる事から始めるべく、新メニューの開拓には走っていなかった。 そんなミナモの様子を、サヤカとユキノは微笑んで見守っていた。いくら未電脳化者で電通が不可能とは言え、傍に居て雰囲気を感じ取り、見ているだけでも判る気持ちと言うのは確かに存在していた。 彼女らは、自分達が話題にしているそのメタルダイバーが今何処で何をしているのか、一切知らない。 |