店内にあるTVでは、この時間帯に放映されるバラエティ番組が映し出されている。そして今はCMの時間帯となっていて、そこにはふたつのブレスレットの映像が交差するようなイメージで流れていた。
「――あのブレスレット、まだ売ってたの」
 友人ふたりが色々会話している間に、既にパフェのアイスを数個片付けてしまっているユキノが、ふと視線をTVに向けて言った。それは7月頃からあちこちでCMが打たれていたブレスレットで、彼女達もそのCMを見知っていた。
 そのCMに反応したのはサヤカだった。まるで甘い物を目の前にしたユキノのような幸せそうな表情を浮かべ、両手を組んで頬に当てる。
「ああ、そうなのよー今度こそメタ友に買って貰うつもりなんだ」
 どのメタ友なのだろう――と、ミナモとユキノはサヤカのその台詞を聴いた直後、ほぼ同時に思った。どうもこの少女は、メタルでの人間付き合いを満喫しているようだったから。
 ミナモは踊るように上体を動かしているサヤカを眺めつつ、プリンを食べてゆく。スプーンがプリンと口の間を数回行き来した後でもサヤカは未だに幸せの踊りを楽しんでいた。そしてそこに、何の気なしにミナモは明快に言葉を投げ掛ける。
「――で、あれってどんなブレスレット?」
 ミナモのその言葉は、彼女らが居るテーブルの空気を凍り付かせた。サヤカの動きが止まり、ユキノの手の中にあるスプーンの動きすら硬直してしまっていた。そんなふたりを、ミナモはきょろきょろと交互に見やる。どうやら彼女には、自分が空気を固形化させた自覚がないらしい。
 少しの間を経て、柱時計の長針がかちりと音を立て、分を刻んだ。その時ようやくふたりの動きは解凍される。
「――ミナモちゃん、あれはインフィニティって言ってね…」
「ニャモ…何処まで物を知らないのあんたは」
 ユキノは自らの知識の中からそれを説明しようとし、サヤカはとりあえず頭を抱えていた。
 彼女らがミナモに説明したように、このブレスレットはインフィニティと言う名称だった。サヤカがメタ友に買って貰おうかと考える事が出来るだけに、学生であっても少々背伸びすれば購入出来る程度の価格設定となっていた。だからこそ若年層に人気を博している。
 7月当時でのCMではハレー彗星の76年振りの回帰になぞらえて「永遠の愛を誓い合う」との文句がつけられていた。そしてハレーが去った今でも、人々の記憶に彗星の様が鮮明に残されている以上、同じ文句で市販されているようだった。数年は大丈夫かもしれない。上手い商売である。
 以上の知識は、サヤカは自分が欲しがっているものだから情報収集を怠らなかった結果の賜物である。ユキノの場合は、以前この店などでCMを見て記憶していたのと今メタルで検索した結果である。
 そのふたりが代わる代わる口々に行った説明を、ミナモはふんふんと相槌を打ちながら聞き入っていた。納得が行ったような表情を浮かべてゆくミナモの様子に、ふたりの友人は安心して行った。
 そこに、ミナモは再び首を傾げつつ、怪訝そうに質問を投げ掛ける。
「――でも、ふたつあるじゃない。じゃらじゃらつけるの?それとも壊れた時のためのスペア?」
 その瞬間、再び空気が硬直した。確実にサヤカとユキノの体感時間が停止する。
 そしてサヤカはがくりと肩を落とす。膝の上で拳を握り締め、肩を震わせていた。
「…ニャモ、あんたのその発想は嫌いじゃない。嫌いじゃないけど…!」
「カップルで買って、お互いにつけるのよ。だから永遠の愛を誓い合うの」
「――ま、結婚指輪みたいなもんだな!」
 眉を寄せて押し殺すような声で言うサヤカを、ユキノがフォローする。そして最後にはこの店のマスターまでやってきていて、会話に参加してきていた。現在、客の姿は他にないために暇だったらしい。
 3人がかりで何のかんのと突っ込まれてゆくミナモは、その様子に小首を傾げていた。彼らの説明を耳にしつつ、スプーンで最後のプリンのひとかけらを掬い取る。
 それを口に含むと、牛乳と生クリームの効いた味わいが口の中に広がってゆく。視線を上に向けつつ、ミナモはある事に思いを馳せていた。
 
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