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アンティーク・ガルと言う名を持つこの店は、実は喫茶店ではない。それは店内の一角を占める棚に並ぶ、値札が付けられた雑貨や骨董品からも一応は類推する事が出来た。 しかしそもそもはどういう事情に拠るものだったのかは客は知る由もないが、この店では喫茶店のようにメニューが存在し、普通に料理を注文する事が出来る。そしてマスターの手によって客に出される料理は、人工島の食物事情に挑戦するかのように天然ものに拘った食材を用いていた。食材に対応して値段設定は若干高目ではあるが、個人経営の飲食店としては許容範囲である。学生であっても財布と相談しながら充分に通う事が可能だった。 そのために、商業区画や居住区から外れた場所にあると言うのに、常連客はそこそこ存在していた。あくまでも、喫茶店と誤解しての客が殆どを占めてはいるが。 時間帯としては夕方である現在、久々にこの店は常連の中学生達を迎え入れていた。夏休み中は御無沙汰だったのだ。1ヶ月振りに少女達の元気な顔を見る事が出来、マスターとしても嬉しい限りだった。 特に、幾分ふくよかなあの少女は、相変わらずの食べっぷりを見せてくれている。少々の時間を置いても、色々な意味で全く変わっていないとマスターは半ば苦笑してしまう。 カウンターキッチンでジャンボパフェを構築しそのテーブルに彼が持って行った頃には、その少女はフルーツババロアを完食する所だった。頬が落ちそうと形容するに相応しいようないい笑顔と仕草で、彼女はその口の中に広がる味を楽しんでいる様子だった。 同席している他のふたりは未だに最初に注文した料理を楽しんでいるだけだった。色黒でスポーティな少女はピザトーストを半ばまで食べた状態で、現在はブレンドコーヒーを口にしている。そして大きなリボンが目立つ少女は、プリンアラモードをプリン本体と飾りのフルーツとをバランス良く掬っていた。 「――はい、おまちどうさま。ジャンボパフェだよ」 「わー、1ヶ月振りー!」 ババロアがあった皿を自ら横に避け、名前の通りに大きなパフェを迎え入れたその少女は、頬に手を当てて嬉しがりつつ可愛らしい声を上げていた。 マスターとしても、ここまで喜んでくれると料理人冥利に尽きるとは思う。客商売ではあるが愛想笑いを浮かべる必要もなく、自然に笑顔が表れてきていた。 そこに、プリンを掬っていた蒼井ミナモが、怪訝そうな声を上げた。手にしたスプーンでパフェを指す。 「――って、あれ?まだハレー彗星仕様なの?」 そのパフェにはクリームと色とりどりのアイスがふんだんに使われ、イチゴや桜桃などのフルーツが乗っていて、コーンとチョコポッキーなども刺さっている。そして彩るようにアイスの表面には、星型の小さなチョコが振り撒かれていて、流星をモチーフとした飾りもついていた。 確かにあの7月29日以前の1ヶ月程度前から空にはハレー彗星が浮かんでいたもので、29日以降にも8月中には徐々に霞んでゆく彗星が空に認められていたものである。9月に入ると流石に、海の真ん中に浮かぶ孤島である人工島のおいても肉眼では捉える事が出来なくはなったが、76年振りの天体ショーに人々が酔いしれていた。 だからハレー彗星と言う存在は、人工島住民にとっては馴染みのものとなってはいる。しかしもう時期を外した存在とも言えた。 ともかくマスターはミナモ達に笑顔を向けた。 「いやあ、これからも人工島では色々と天体観測に力を入れるらしいからね。研究者じゃない人間でも、単に綺麗なものとして見れたからねえ…」 その言葉にサヤカが顔を上げた。納得した風に頷く。 「そっかあ。ハレー以外も天体ショーとして名物にするみたいな事言ってますよね」 人工島とはその名の通り人工的に作られた島である。通常の天然島とは違い海底の状況とは関係なく存在しており、結果的にアイランドを従えているとは言え海の真ん中にぽっかりと浮かんでいる存在となっている。 そのため、島の周りには明るい光を発する都市などが一切存在しない。その環境が天体観測に適しているとして、評議会は人工島の新たな観光資源と位置付けようとしていた。 そして8月中の去りゆくハレー観測による観光促進は一定の成功を見せている。他の都市部ではもう観測する事が出来なくなった状況でも、自然に配慮した景観を保っている人工島ではまだ大丈夫だったのだ。その成果を元として、今後も他の彗星や流星群などで観光客を誘致する試みを始めている。流石に、規模や知名度共に、ハレー彗星級の天体ショーはそうは存在しないものだが。 そう言う状況は、一般島民に対してもニュースや公報などで通知されていた。だからサヤカは知っている訳である。しかし、ミナモは首を傾げていた。スプーンを口にしつつ、怪訝そうな声を上げる。 「――…そうなの?」 「ってニャモ、ニュース位見ようよ…」 サヤカは呆れたような声でミナモにそう言った。 夏休みの間、人工島を離れていたユキノならばともかく、オーストラリアの祖母宅にも行かずにずっと人工島に居た人間が知らないとは一体どう言う状況なのだろうと彼女は思った。 ミナモは電脳化していない少女だから常時メタルに繋げない訳で、ニュースなどのコンテンツを脳内に展開する事も出来ないと言うハンディはあるにせよ、携帯端末で殆どのネットワークコンテンツは映像化して閲覧や視聴出来るのだ。なのに知らないと言う事は、そもそもニュースをあまり見ないのだろうか。 |