8月2日の朝は何事もなくやってくる。ドリームブラザーズが面している海は相変わらず静かにさざめいていて、その上に太陽が出現して行っていた。常夏の空気が太陽と潮の香りを含み、開いた窓から室内に運んでくる。
 自室から起きてきたユージンは、キッチンまで姿を見せた時点で目の前の光景に思わず足を止める事となる。
「――おはようございます。ユージンさん」
「…何してるんですか、波留さん」
 ユージンは、呆れたような驚いたような、そんな顔をしてしまう。彼の視線の先にあるカウンターキッチンの向こうでは、黒髪の男がコンロに掛けられた鍋に向かっていた。長い髪は結んだ後に更にタオルで上に纏め上げている。
 彼の手にはおたまが握られていて、鍋の中身を掻き回している。すると、ふんわりとコンソメの香りが漂ってきた。その香りがユージンの鼻腔を直撃し、身体が食欲を訴え始める。
「お世話になっていますから何かお作りしようと思いまして、冷蔵庫の中身でスープでも作ってみました」
「…使えそうなものありましたっけ」
 ユージンは戸惑っていた。何せ兄弟共々あまり料理をしないし、最近忙しくてまともに家で食事をしていなかった。その結果、少々恐ろしくて、冷蔵庫の野菜室を覗いていない。そんな状況なのに、波留は料理をしているらしい。
「色々な野菜とベーコンがありましたよ。後はコンソメ入れたらいい感じになりました。使った分は後で買い足しますので、御心配なく」
「いえ…まともな野菜なかったと思うんで、どう使って頂いても構いませんが…」
 ユージンは首を捻る。あの冷蔵庫の中身で料理が作れたのだろうか。しかしいい香りが漂ってきているのは事実なので、おそらく味も大丈夫なのだろう。彼はそう信じたかった。
「後はパンを焼いて、目玉焼きでも作りましょうか。アユムさんはまだ起きてらっしゃいませんか?」
「…そろそろ起こすつもりです」
「ではそれらも始めておきますね」
 戸惑い続けているユージンをよそに、波留はにこやかに笑う。その足元に、猫が擦り寄ってきていた。
 
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