色々と言いたい事はあるが、とりあえず衛としてはこの男が「波留」であるとの前提で話を進める事とした。正直な所、多忙である現状において、その前提を疑っている時間が惜しかったのだ。 彼らはこの場での詳細の報告は避けた。波留が行いたいのは今回のダイブについての結果報告なのだが、それは計画を主導した部長代理同席の上で行うのが筋だろうと思う。 そしてこれはアイランドの共有回線である。回線も暗号化されておらず、そもそも端末の画面は通行人の誰でも垣間見る事が出来るためにセキュリティ上も心許無い。更に使用時間も心理的な意味で制限されている。 そのために波留が人工島に戻り次第、早急に改めて場を設けると言う事で意見の一致を見た。 「とりあえずは、ソウタ君に僕の無事をお伝え下さい」 「はい」 「メタルは復旧しましたが、もう夜ですので定期船は明日早朝からの運航だそうです。ですから、その便で人工島に戻りたいのですが、いかがでしょう」 「判りました、その便の席を用意させておきましょう」 そんな会話を経て、ひとまずこの電通を打ち切る事となった。実際に波留の背後にはまだまだ列が連なっており、そろそろ端末を解放しなければまずい事態になりそうだった。 「――波留さん。また、我々をお手伝い頂けますか?」 「…それについても、明日」 波留は微笑を浮かべてそう答え、衛もそれ以上は話は続けなかった。長い話になる可能性があったからだった。波留の背後の列と衛の山積みの仕事とをお互いに考慮し、ここで彼らの通話は打ち切られた。 |