グラニュー糖を入れた鍋を火に掛け、カラメルを作る。それを陶器のカップに移して冷蔵庫で冷やして固める。 そしてプリン本体を作るために、牛乳や卵、生クリームやグラニュー糖などを混ぜて漉す。裏漉しの手間を省くために、離乳食用のカボチャとサツマイモのペーストを利用した。それらを泡立たないように陶器に注ぎ入れ、蒸し器にかけて後は冷蔵庫で冷やす。 ソウタは事務所からの帰宅中、材料となり得る食材を買い足していた。そして帰宅後、夕食作製に取り掛かる前にまずこれを作った。それ程難しくないレシピであったためにそれは可能だった。きちんと冷やした状態のものをデザートして出したかった事も要因である。 ――いくら固形物を受け付けない身体であっても、プリン程度ならば食べられるのではないだろうか。ソウタはそう思い、試しに作る事にしてみたのだった。無論、自分で作る料理において、自分なりに妥協は許さないのが彼である。 事務所の人数分を作ると言っても、ホロンにはこれを食べられないので結局は3人分だった。それでも彼女には、同系統の味である義体用プリンを購入して持っていくつもりだった。 彼としてはそこまでは考えていたが、ミナモの指摘によりもう1個、義体用プリンも確保しておくべきかと考えを新たにする。もしかしたら唐突に訪れるかもしれない、久島の分も。 あの事務所も、ミナモにとっては家なのだ。あの応接間に集うメンバーもまた、彼女にとっての家族なのだ。事務所に住む波留やホロンは勿論、たまに訪れる久島すらそれに含まれているのだろう。 ソウタにも、ミナモの考え方が、何となくだが理解出来始めていた。彼女の論理を理解した所で、彼がそれに納得出来るかは別の話だが。 しかし、あそこが家族の集う場所ならば、自分がやるべき事があるだろう。彼はそう考えていた。 自分が作った料理やお茶があの応接間に出される。それを楽しんでくれるのは妹だけではなく、あの白髪の老人やアンドロイドもそうしてくれる。そこにはたまに、電理研では見られる事もないような表情を見せてくれる上司もいる。 ソウタはそんな光景に思いを馳せる。――悪い気は、しなかった。健康な人間と老人のみならず、義体が入り混じっているために、その準備はかなり面倒になるだろう。しかし、彼にはそれすら楽しめそうな気がした。 ――もっとも、今朝見たようなあの夢のような光景は、勘弁したいものだが。彼は述懐にそう付け加える事も、忘れない。 ミナモも血を分けた家族を蔑ろにしている訳ではない。しかしこれもまた、彼女にとってはひとつの家族になりつつあるのだろう。 俺にとってはどうなのだろうか。自分の内面の事ながら、そこまでは彼にはまだ判らなかった。自分の心が行動に直結する妹が、ある意味羨ましく思えていた。 |