白ご飯に豆腐とわかめの味噌汁。胡椒を効かせたチキンソテーにレモンを振り掛け、付け合せにはキャベツとニンジンの千切り。小鉢にはほうれん草の胡麻和え。今日の蒼井家の夕食はそんなメニューだった。 いつもながら食べる側に回るミナモはそれらを美味しく完食していた。今回はピーマンが入っていないメニューだったために、彼女としても満足だった。自分が片付けた分の食器類を、カウンターキッチンの向こうへと持ってゆく。 「――ミナモ」 キッチンに立つソウタはそれらを受け取りつつ、妹を呼び止めた。 何かと思い、ミナモは振り返る。普段ならば食器を片付け終わった段階で、もう自分の部屋に上がるのが常だった。それが今回に限って呼び止められるのだから、怪訝そうな表情にもなる。 ソウタは流しに積み上がった食器類のひとつひとつにスポンジで洗剤を擦り付けながら、口を開いた。ミナモの方を見ずに言う。 「デザートあるから」 「…え?」 その台詞を訊いたミナモは、その場に立ち止まっていた。まるで凍りついたかのようにその場に立ち尽くしている。短く言葉を発した半開きの口は閉じられる事無く、ぽかんとした表情を作り出していた。 ちらりと隣を目視したソウタは、妹のその表情に気付く。少し眉を寄せ、妹に言う。 「何だ、その表情は」 「だって、ソウタがそんなの作るなんて」 意外そうな声と表情で、ミナモはソウタに応えていた。 確かにソウタは普段から料理は作るが、それはあくまでも食事でしかなかった。お菓子の類は滅多に作る事はない。 作ったとしてもそれは波留の事務所に持って行くようなお茶請けのクッキー程度である。この自宅で食べるようなデザートなど、ミナモにとっては初耳だった。彼と共に住むようになって2ヶ月だが、初めての体験である。 「…たまにはな」 妹の至極もっともな指摘に、ソウタは俯き加減でぶっきらぼうに言った。彼の視界の中では、泡だらけの食器類がシャワー状の温水によって洗い流されている。 |