厭な情景を心から追い出して、ソウタは食事を終える。それから彼は家中の掃除を行った。家屋の素材が元々ある程度の自動修復型で掃除も毎日行っている事もあり、手間がかかる事はない。
 その他洗濯などの日常の家事を終えた頃に彼は時計を見ると、昼下がりの時間帯となっている事を知る。まだ中学校の授業は終わらない頃だが、そのうちに終わるだろうと、彼はまず妹を連想する。
 彼は家の中を片付ける。自分の部屋に戻り、適当に私服に着替えた。それから壁に掛けられた鍵が数個付けられたキーホルダーを摘み上げて取った。同じく室内の棚に置いてあるヘルメットを片手に下げ、彼は家を出た。





 ソウタが自宅から水陸両用のバイクを暫く走らせた先に、波留の事務所権住居が姿を見せた。彼はバイクに乗ったまま、1階部分にある別のテナントの脇をすり抜ける。
 海沿いにある豪邸は太陽の光と海からの照り返しを全面に浴びていた。彼はバイクを住居に横付けし、停める。ヘルメットを脱いでバイクの中に仕舞い込んだ。そのまま彼は住居の玄関口へを向かう。ガラスの自動ドアをくぐった。
「――こんにちわ。ソウタ君」
 ソウタが挨拶するより先に、家主が声を掛けてきた。彼は事務所の奥にある机に着いて電脳での作業を行っていたようだった。相変わらずにこやかな声と表情を浮かべている。それはソウタが先程夢で見たものと全く同じである。
 ともかくソウタは波留に対して軽く会釈した。そのまま室内を見回す。いつもながら片付いている広い室内。玄関先にあるボードには、事務所に所属している人間の所在が表示されている。
「ミナモは来てませんか?」
「まだ学校ではないですかね」
 時間帯としては、学校が終礼を迎えたかどうかと言うものだった。下校した彼女が急いで事務所に向かえばそろそろ到着しているかもしれないし、のんびり歩いてくるならばまだ時間が掛かるだろうと思われる。
 もしかしたら友達と遊んでいるのかもしれない。ミナモは人工島に越してきて1,2ヶ月と言う頃だった。丁度友達付き合いが楽しい頃なのではないかと、ソウタには思われた。波留との付き合いが楽しいにせよ、同年代の友達付き合いもまた楽しいだろう。
 そんな友達とあちこちで遊んだりして、たまにはそんな日もあるだろう。むしろたまにはそうであってくれとすら、彼は思う。やはり、彼は何処かに夢を引き摺っている。
「――…お茶、淹れましょうか」
「お願いします」
 長考した挙句に手持ち無沙汰に言い出したソウタの台詞に、波留は笑顔で頷いた。
 事務所の内部にあるキッチンからは、アンドロイドのホロンが顔を出していた。彼女もまた、ソウタの姿を認めると笑顔で会釈してきた。ソウタはキッチンに向かいながら、彼女の顔を見やってぎこちなく挨拶を交わす。

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