――室内では、デジタル式の時計がかちかちと音を立てている。秒針を模した光の棒が規則正しくリズムを刻んでいる音だった。 現在、そのリズムを乱すかのように、ソウタの荒い息の音が混ざってくる。彼はベッドの上で上体を折り曲げている。 室内着を纏い、その下半身にはシーツをかけている。起き上がった事で上体に掛かっていたはずのシーツの上部分は腰の辺りで纏まっていた。元々から癖の強く硬めの髪が、更にばさばさになっている。その前髪が掛かる顔に汗が流れていた。 彼にとって、凄まじく夢見の悪い昼だった。 昨晩から今日の朝方にかけて、ある調査の後処理に追われたために、今日の彼は終日休暇の予定となっていた。そのために朝に帰宅した後に、中学校へ通う妹のための朝食と昼弁当の作製をして妹を叩き起こして送り出し、それから自室で倒れるように眠り込んでいたのだ。 それがまずかったのかと彼は思う。夢とは古来から色々な意味づけを行う向きがあるが、結局は睡眠中に身体からの入力がない隙を突いて、脳が情報を処理するための生理機能から発生させるものである。それがこんなものとなるとは――俺は余程疲れているらしいと彼は思う。あれが今、俺の内面に巣食っている厭な考えか。 額を押さえ、顔を横に数度振る。そして彼はベッドから下り、立ち上がった。 そのままソウタはキッチンに向かい、自分独りのために軽く食事を作る事とする。時間帯からして朝と昼の兼用だが、夢見のせいもあって彼にそれ程食欲はない。しかし食べなければ身体に悪い。それが彼の持論である。 戸棚にある食パンの包みから1枚引き出し、トースターにかける。その間、鍋で水を沸かし、そこに切り分けたブロッコリーを投入して茹でに掛かる。冷蔵庫にあるレタスを千切り、キュウリやトマトも切る。別にミルクパンに沸かしたお湯に、コンソメの欠片を投入し、ベーコンやキャベツを細かく切って入れる。仕上げの頃に、フライパンでハムエッグを焼き上げる。 完成し、キッチンカウンターに並んだ料理は、充分なものだった。ソウタはそれを独りで食べに掛かる。 食べつつも彼の心にはやはり夢が引っ掛かって仕方がない。――いや、あり得ないだろうそれは。彼は冷静に反駁しようとするが、どうにもそれを徹底出来ない。 ミナモは確かに波留に対しては表情が明るくなる。そして波留もミナモに対しては、表情が柔らかい。お互い普段からそう言う人間であるのは確かだが、それに更に輪をかけているように思える。あの年齢の外見でなければ、明らかに付き合っていると言っても――。 彼の思考は、どうしてもそこに戻ってきてしまう。我ながら馬鹿げた考えだと思ってしまうのだ。しかし――。 苛々と、彼は食パンの耳を千切る。――大体、そんな事になったら先生も黙っていないだろう。先生は波留さんの保証人なのだから、口出ししてくるはず――。 …いや。待て。 辿り着いた結論に、ソウタは固まった。パンの耳を指に掴んだまま、黙り込む。 先生なら――泣いて喜んで、ついでに仲人までやりかねない――。 自分の想像ながら、恐ろしい方向に至ってしまった事を、ソウタは後悔した。 |