それから数日が経過した。 波留は僅かな私物を携えたのみで、ほぼ着の身着のままで電理研に向かっている。来賓施設に生活用品は揃っており、着替えも用意されていたからだった。「竜巻」の被害区域に波留の生活空間が含まれて居なかったために、引き揚げる物品が全くなかった事もある。 その間、波留の事務所では順調に改装工事が施工されている。事務所で使用されているガラスは特殊な素材であり、その設置と設定には時間を要する。破損した家具の一部にも取り寄せの必要があった。何より急いで修復しても何も良い事などないために、確実な工事が行われている。 ホロンの外装のオーバーホールも終了している。彼女は脳機能以外は公務用アンドロイドとしてのデフォルト設定のままである。そのために電理研所属の同型アンドロイドのパーツを流用する事が可能だった。その後はAIのソフトウェア面でのチェックが行われて、こちらにも異常は発見されなかった。 事務所の改装工事が終わっていないために波留は電理研に滞在したままであるが、復帰したホロンとの面通しは終了している。そのままホロンは波留の元に残り、普段通りに介助をこなしていた。 事務所で特に依頼を抱えていない以上、ソウタは電理研のインターンとしての仕事に専念している。ミナモも事務所が開店休業中であるために、わざわざ電理研まで足を運ぶ事はしない。それでも毎日決まった時間帯に波留とは電通で他愛のない会話を交わしていた。それは彼女が事務所を訪れた時と大して変わらない行為である。 波留の事務所に居座っているシュレディンガーと言う大層な名前の猫については、流石に電理研に連れ込む訳にはいかなかった。かと言って蒼井家で預かるにも、蒼井兄妹が揃って不在の時間帯も多いために不可能だった。 結果的に「彼」はドリームブラザーズにて暫く厄介になっている。兄のアユムの陰口を引用するに「いくら下らない事でも、あの久島部長からの依頼を断ったら、今後の仕事に支障が出るだけじゃなくて俺達がどうなるか判らねえよ」との判断が「彼」の助けになっていた。これはあまりにバイアスが掛かった発言ではあるが、人工島の一般人かつ電理研の委託ダイバーと言う立場からすると普通の発言の範疇でもある。 ともあれ結果的に波留の生活ペースは、事務所とこの来賓施設とでは、あまり変化はなかった。強いて言うならば久島が来賓施設を毎日訪れる点が違うが、そもそも今までも波留は良く電理研を訪問し久島と顔を合わせていた。久島自身も依頼でなくともたまに事務所に来ていたのだから、大きな相違点でもない。 事務所に集えない状況となった中、彼らはそんな日々を送っていた。 |