彼らが歩みを進めると、道は分かれている。どちらに進んでも賑やかな市街地である事は変わりはない様子だった。
 何時の間にかに電理研技術者陣達は縦長の隊列になっていた。久島が単独で先に進み、後ろにその他の部下達が固まっている。そして波留がその間に入って飄々とした足取りで歩いていた。
「――じゃあ、我々はあっちへ行きますんで」
「ああ。あまり羽目を外すなよ」
 久島の部下である彼らが指差す先は、所謂歓楽街である。小さなコミュニティではあるが既にその手の店は何件か存在していた。
 アジアの様々な国の人間が滞在している島ではあるが、その大抵の国の法に触れないような営業形態にはなっている。せいぜい女性と酒を楽しむ程度の店だったが、娯楽に乏しい島ではそれで充分である男が多かった。
 久島以外の人間達は分かたれた道を進もうとしていたが、波留が分岐点に立ったままで居る事に気がつく者がいた。
「波留、お前は来ないのか?」
「いや…今日はいいや。早く帰って休むよ」
 怪訝そうに訊かれると、波留は苦笑気味に言った。纏められた後ろ髪に手をやり、いじる。場所が南国の屋外だけあって技術者達とは言え正装ではないが、それでも長髪かつスーツでもなくTシャツとジーンズである波留の姿は浮いていた。
「…今日はってのが、厭味な奴だな」
 波留は同僚のその言葉に笑う。楽しそうに鼻の頭を掻いた。
 実際、波留は大抵彼らに付き合っている。彼はたまに仕事で疲れていて遊ばずに寝に帰る事もあるが、今日もそれらしい。同僚達はそう認識し、波留の帰宅を特に変だとは思わない。
「まあ実際、来て欲しくないけどな」
「そうそう、早く帰って安らかに眠れ」
 掌をひらひらさせたりして邪険にする同僚達に、波留は苦笑を濃くした。
「何だよそれ」
「お前が来ると女の子が皆そっちに行っちまうんだよこの野郎」
「この一見の爽やかさがいけないのか畜生!?」
 まだ全員ビール1杯しか入ってないはずだが、波留は同僚達に見事に絡まれていた。指差されたり軽く小突かれたりして散々ではある。しかしお互いにじゃれ合っているようなレベルだった。
 その部下達の様子を久島は遠巻きにして見ていた。しかしそのうちに彼らに一声かけて、歩き始めた。埃っぽい空気が肘の辺りまで腕捲りした白いシャツに纏わり付く。

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