|
電理研統括部長が多忙なのは周知の事実である。 その日常はさして変化しない。メタル内で事件が勃発する頻度は一定ペースのままで、その対処も20年積み上げてきた経験則から逸脱する事もない。大抵の案件は彼の部下達で対処可能であり、彼はその監督と大局の監視を任としていた。 その日も久島は通常業務として、定時のうちにオフィスへとその身を到着させていた。いつものように、領域に留め置かれているメールや報告書などに目を通してゆく。 その間にもメールは何通か届いてくる。実質的な最高権力者が認可を与えなければならない案件は数多い。久島は報告書を読み進めつつもそれらのタイトルを横目でチェックして、重要度のフラグを割り振ってゆく。 そんな定例作業を行っていた彼だったが、着信音と共に届いた1通のタイトルに、その視線が留まっていた。 送り主はネオブレイン総務部で、電理研総務部と秘書型アンドロイドを経由してこの部長オフィスに届いている。 そして、そのタイトルは――。 久島は電脳を操作し、そのメールを開いた。 展開されたメール画面に表示された文面は、定型文である。曰く、当社の会長職に就いていた小湊沙織は、薬石の甲斐なく昨晩逝去致しました――後は通夜と葬儀の日程が告知されている。 久島はその文面を最後まで読み、眉を寄せた。唇を噛み、俯いた。黒い盤面に、自らの歪んだ顔が映っているのを目の当たりにする。その盤面に拳を握り締めてゆく。 この朝は、彼が電理研付属メディカルセンターに見舞いに出向いてから、10日も経っていなかった。 |