結局、僅かに日が傾きつつある今でも、猫と波留は並んだ状態でテラスで陽射しに当たっている。
 その情景をミナモとホロンは少し引いて、テラスのテーブルから見ていた。ミナモの目の前には牛乳入りのコップと数枚のクッキーがある。
「陽射し、今日はまだまだあったかそうですねー」
 ミナモは少し遅い時間となったが、お茶の時間を楽しんでいた。お茶と言っても今日は牛乳なのであるが、これは彼女のリクエストである。猫のために準備されていた牛乳を見て、彼女は何だか御相伴したい気分になったのだ。もっとも肝心の猫は、トレイに入った牛乳には全く見向きもせずに丸くなっている。
 向かいにはホロンが座り、彼女も義体用の紅茶を口にしている。完全義体化した人間や元より人工体であるアンドロイドは、生身の人間とは同じ飲食物を摂る事は出来ない。しかしこの人工島において、義体用の飲食物もある程度は入手が容易なレベルだった。少し大き目のスーパーや通販ショップには選べる種類が揃っている。どちらにせよ彼らは、生身の人間のように食物を絶対に取得しなければならない訳ではなく、完全にフレーバーとしての食事でしかないのだが。
 ともかくホロンは紅茶のカップを傾けつつ、瞼を伏せて微笑んで言った。
「でもマスターはちょっと不機嫌だったみたいですよ」
「え、どうしてですか?」
 不思議そうに問うミナモに、ホロンは紅茶の湯気を顔に当てつつ答える。
「定位置をあの猫に取られているからです。朝も、今も」
「それじゃ、波留さん、まるで猫みたい」
 ミナモは楽しそうに笑い、影が伸びてきたテラスの老人を見た。
  
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