――ところで、君は犯人に心当たりは? 久島が自らの脳内でコンソール内のログを処理している最中、不意に波留がそう訊いてきた。 「犯人か?個人を特定出来る訳ではないが、心当たりはない事もない」 敢えて声に出しつつ、同じような内容を波留に通信している。それは背後の電脳化していないミナモへの配慮でもあった。バディであるなら我々の会話を聴いておきたいだろう、横から割り込んできた私が勝手に波留と話を進めてもつまらないだろう――彼はそう考えたのだ。 「電理研から仕事を請けた委託ダイバーだろうし、私に経路をつけたと言う事は1回でも直に会っているはずだ」 そう告げると、久島はメタルの波留が溜息をつくのを感じた。どうやら波留は親友に同意見だったらしい。 ――やはり、そう思うか。ならば僕が糸を追っているこのログで、かなり絞り込めるな。 「ああ。電理研に1回でも登録されたダイバーなら、私は把握出来る」 言いながら久島はメタル経由でモニタを操作した。波留から送られてくる動画の視点を変える。ミナモはその様子をじっと見ていた。この操作は電脳化していない彼女には出来ない事だった。 動画の視点は波留からのものではなく、彼を遠くから映すものに変わる。それによって彼が目指している先を判り易く見る事が出来るようになる。殆ど光が届かない深く蒼い海の中、きらきらと輝く細い一本の糸が揺らめいていた。それを波留は手首に手繰り寄せ巻き付け回収しながら進んでいく。 「――え?」 不意にミナモが声を出した。何かに気付いたように。 彼女はそのメタル内での視界の向こうに、何やら黒い点のようなものを見たような気がした。彼女が実際に見ている視界ではないが、目を凝らしてモニタを見る。 糸が発する光によって作られた影かもしれないし、水の揺らめきが作り出す波紋の錯覚かもしれない。それでも、本当に小さな一点が彼女の目に入ってきていた。 唐突に、寒気がした。そして彼女は叫ばずにはいられなかった。――自分の直感に従って。 「――波留さん!そこに居ちゃ駄目!」 |