――とは言ったものの、どうやって探したものか。 電脳ダイバーとしてメタルの海にその身体を沈めている波留は、そうひとりごちた。目的としていた作業は終わり、ひとまずシステムパネルの区画から早急に離れる事とする。仮想空間であるメタルだからか、メタル内では波留の姿は50年前の若々しいものに戻り、体も自在に動かせるようになる。彼はその腕で水を掻き、海の中を進んでいった。 しかしある程度離れた所で、彼はひとまず泳ぎを止めた。足を軽く動かし、その場に漂うように留まる。この付近は人工島一般区域サーバ内の中心部であり、この辺りならば無認可のダイブであってもあまり目立ちそうになかった。 四方を見回しても、海は何処までも続いている。彼の周りには誰かのナビゲート用なのか、メタルの魚型アバターがゆらゆら泳いでいた。このように、人工島全体をカバーするメタルはひたすらに広大であり、そこに紛れ込んだ一個人の意識など、手掛かりナシに見付けられる訳がない。 久島がハックされた場所が電理研ならば、電理研サーバ付近を見回るのもいいかもしれない。しかしあまり近付くと、電理研を守るセキュリティに引っ掛かってしまう。現状では電理研にとってやましい事はしていないが、彼としては確証もなく電理研に追い掛け回される事になりかねない行動は取りたくなかった。 ――久島ならば、何かしらの抵抗をしているはずなんだがな。波留は旧友の性格を思い返す。 とは言え下手に抵抗しては脳核に危害を加えられる可能性が高い。彼はそんな無謀な行為はやらないだろう…。 そんな事を考えつつ、波留はひとまず電理研サーバを目指して泳いでいく。セキュリティに睨まれない程度に距離を保ち、全ての感覚を用いて手掛かりめいた現象を発見するつもりだった。 そうやって泳いでいた時の事だった。 波留は視界の向こうに、何か光を見たような気がした。 元々情報量が多いメタルである。彼の視界の中では様々なものが行き交っている。そう言ったノイズのひとつであるかもしれないが、どうも明滅に法則性があるようだった。それは彼の記憶を呼び覚ます。50年以上前、彼がリアルの海に潜っていた頃の事を。 ――救命ビーコンだ。メタルの海にもこれがあったのか。 微妙な懐かしさを覚える。しかしこれが起動していると言う事は、誰かが遭難していると言う事である。和んでいる場合ではない。 もしかしたら本当に久島が起動しているのかもしれない。他の人間かもしれない。どちらにせよ、海に生きた人間としては救命信号は見逃せないものだった。波留は勢い良く水面を蹴りつけ、一気に推進力をつける。そのまま海中を突き進んでいった。 |