――波留さん、大丈夫かなあ。
 ミナモは事務所内に設置されている託体ベッドとそれに横たわる波留を前に、溜息をついていた。
 現在このベッド型の装置の中には波留が収まり、メタルに接続している。電理研で利用した設備とは違い、周辺装備は安全装備や動画投影などの最小限の装備に留められている。
 彼女は小型のモニタに投影されているメタル内の映像を見詰めている。波留の視点から見たメタルの海がそこに映し出されていた。電脳化していない彼女には直に体験出来ない光景である。
 通常の電脳化しているダイバーパートナーならば、ダイバーから送られてくる動画映像を見ながら電脳通信でアドバイスや話し合いをしつつ調査するのが常である。実際に電理研でダイブした時には、波留に対して久島がそう言う作業を行っていた。
 しかし今のミナモにはそれは不可能だった。メタルの波留の思考も音声もミナモには聴く事が出来ないし、ミナモの言葉もメタルの波留に伝える事は出来ない。
 ミナモは本当に、波留の行動を見ている事しか出来ない。逆に言えば、それこそが彼女の仕事だった。だから彼女は食い入るようにモニタを見詰めている。
 そんな彼女でも、首を捻らざるを得ない事はあった。
 ――でも、これって…本当にやっていいのかなあ。前もって皆と打ち合わせてた事だけど…。
 モニタには、メタルの海に浮かび上がっているシステムパネルを、ダイバースーツで覆われた波留の手が色々と操作している光景が映し出されていた。
  
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