「――また、こいつのそんな話を信じてるんですか!?」
 ソウタは開口一番、そう叫んでいた。波留に対して呆れたような表情をし、片手ではミナモを指差す。彼は妹に言わせると無愛想と言う事になっているが、妹絡みで他人に相対すると割と感情豊かになりがちである。
「はい」
 こいつ呼ばわりされた妹に軽く食って掛かられようとしていた彼に対して、波留は微笑を浮かべて簡潔に答え、軽く首肯した。これではソウタとしても何も言えなくなり、うんざりした表情で首を振る。そんな彼に波留は微笑を浮かべたまま、問い掛ける。
「蒼井さん、久島の義体には固有の認証コードがあるはずです。それはお持ちですか?」
「え、そんなもの…」
 対外的には単なる電理研インターン、上司は統括部長とは言え彼の部下その1に過ぎない自分が、そんな個人情報を持ち合わせている訳がない。その程度の存在である自分にそんな事を訊く波留に、ソウタは戸惑った。思わず台詞が繋がらない。その流れを受け継ぐように、滑らかにホロンが口を挟んだ。
「ございますよマスター。以前、私が受け取っております」
 ホロンは波留の様々なサポートのために存在するアンドロイドである。そして彼女を誰が用意したかと言えば、久島だった。
 彼女のマスターは最初から波留であり、久島が元々のマスターと言う訳ではない。しかし久島が彼女の設定を行った以上、現在でもある程度の命令や設定変更なども可能なようにセットアップされていた。そのために、逆に久島の情報もホロンに渡されている。
「そうか。それを使って現在位置を検索して貰えるかな」
「判りました」
 マスターである波留の指示にホロンは答える。彼女は所持していた小型のペーパー型モニタを広げ、その上に手をかざした。そして彼女は瞼を伏せ、数秒間沈黙した後に口を開く。
「検索完了。GPSによると第4区画12番通り。その付近の監視カメラにアクセスします――」
 モニタに映像が投影される。と同時に、テーブルに着いた全員で一斉に群がり、覗き込む。
「…確かに、久島――ですね」
「画像が悪いのは、カメラの解像度がそれ程高くないからのようです。補正してもこの程度で」
「でも、第4区画って、何処に行くのかなあ?」
「…これ、単なる覗き見になってませんか?」
 周りが口々に様々な事を述べる中、ソウタが苦虫を噛み潰したような表情をして言った。確かに、客観的に見るならば、趣味があまり宜しくない行為になりつつある。
 
[next][back]

[RD top] [SITE top]