ガラス扉の向こうでは、昼下がりの日差しの中、ソウタとホロンが組み手を行っている。それを背景にしつつ、波留とミナモは会話していた。 そんな外をちらりと見やり、ミナモは波留の耳元に口を寄せた。囁くように言い募る。 「あのですね波留さん」 「何でしょうミナモさん」 「これ言うとソウタに怒られちゃったんですけど」 「…はい?」 「私、あの時会った久島さんが、久島さんに思えなかったんですよね」 「……どう言う事ですか?」 思わず波留は腕を解いた。ミナモを見上げ、まじまじと見詰める。 「何となく――なんですよ。久島さんってあんな風に話す人だったかなあ、あんな表情する人だったかなあって」 ミナモは身振り手振りを交え、必死に伝えようとする。その様子を波留は見ていた。しかしその眉が若干不快そうに歪む。その変化にミナモは気付いた。そして波留は口を開いた。 「あなたはそこまで言える程、久島を御存知ですか?」 波留に端的に言われ、ミナモはしょげ返る。確かに波留と久島は友人であり、そんな間柄の人間に対して第三者からそんな評価を下されて嬉しい訳がないだろうと彼女は悟った。 波留は眉を寄せたまま、ミナモを見やっている。顎に片手を当て、少し考えた。 「…しかし、それもまたあなたの閃き――か」 「え?」 独り言のように言った波留の言葉が、ミナモに微かに届く。彼女もまた、顔を上げた。波留を見詰める。 波留は瞼を伏せた。電脳経由で外のホロンに話しかけた。 ――ホロン、蒼井さんも連れて戻ってきなさい。話がある。 ――はい、マスター。 答えが返ってきた時には、ホロンはソウタを組み伏せていた。 |