電理研付近から水上バスに揺られ水路を進み海沿いまで出る。そしてそのバスから降りて徒歩で数分と言う距離に、波留真理の事務所兼住居は存在していた。
 近所にダイバーショップが存在するだけあり、海を臨む事が出来る場所にある。豪邸と呼んでも差し支えがないような別荘めいた住居の傍を、海風が爽やかに流れてゆく。
「こんにちわー!波留さん」
「…お邪魔します」
 高いテンションの妹と低いテンションの兄と言う対照的なふたりが事務所のガラス扉を通ったのは、昼下がりの頃だった。海からの照り返しが扉越しに事務所内に降り注いでいる。
「こんにちわ。ミナモさん、蒼井さん」
 応接間のテーブルに着いていた車椅子に座る白髪の老人が振り返り、訪問者達ににこやかに呼びかけてきていた。
「ミナモさん。今日、学校はもう終わりですか?」
「今日は午前中で終わりなんです」
 答えつつぱたぱたとミナモは波留の元へと小走りに駆けて行く。
 彼女は波留の介助をしつつも「電脳ダイバー」のバディとして任命されているが、あくまでもそれらは学業優先の話である。放課後や休日のみのアルバイトと言う身分だった。そして彼女は学校が終わり次第、急いで波留の元へ向かう毎日を続けている。
「そうですか。――お茶、御一緒しますか?」
「喜んで!」
 ティーカップを掲げて見せる波留に、ミナモは相好を崩した。
 奥のキッチンでは元々は介助用だったが現在では秘書・経理などの様々な機能が付与されつつある女性型アンドロイドのホロンが、ティーポットを手にしている。そこに、何時の間にかにソウタまで入り込んでいた。てきぱきと人数分のカップを用意していく。
 
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