「――現在、4月に発生したような大規模な電磁波は観測されておりません」
 掌をモニタに掲げ、視線をそこに固定したまま、オペレーターが久島に答えている。
 地球律と名付けられた現象が襲来する事は、久島にとって周知の事実だった。それが何時来るか、予測する事が大事なのである。前回は時期はほぼ的中させたものの、規模の予測を誤った。結果、大惨事になる所だったのだ。
 特に、直撃を受けたアイランドで死者が出なかったのは、ひとえにひとりの電脳ダイバーの活躍が偶然にもあったからに過ぎない。そして偶然は二度も続く保証はない。
「地上だけではなく、海底からも何も?」
「はい」
「それなら…――」
 その時だった。不意に久島の台詞が途切れた。一瞬、手の動きも止まる。
「――部長、どうかなさいましたか?」
 自らに与えられる命令を待っていたオペレーターは、それが途切れた事により、アンドロイド特有の無表情ではあるがそんな風に久島に問う。
「…いや、何でもない」
 沈黙したのは、数秒の事だった。久島はすぐに何事もなかったかのように、そう答えた。
「監視を続けてくれ」
 彼はそう言い、オペレーターに背を向けた。後ろで手を重ね合わせ、そのままオペレーションルームから退室していく。
 
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