数人のオペレーターが掌をコンソールにかざし、様々な情報をメタルから引き出している。モニタには数々のダイアログが表示され、目まぐるしく数値が変わって行っていた。久島はそれを見上げ、彼の電脳内でも処理を続ける。 「――これで、3名の救助が完了しました」 バックヤードから声がした。階段を登ってきた蒼井ソウタが久島の元にやって来て、報告を行う。それに久島は振り向いた。 「全員医療班に回したか?」 「はい。現状、命に別状はないそうです」 ソウタの台詞に久島は頷いた。 オペレーションルームのガラス越し、下の方にはダイブルームが見えている。そこには託体ベッドが複数並んでいるが、普段と違いその周りを囲む人間の数が多い。そして託体ベッドのシールドがいくつか開き、そこに担架が運ばれてダイバーを移動させていく。 その状況を久島の隣で眺めやりながら、ソウタが口を開いた。 「流石は波留さんです。作業が早い。たまたま来てくれていて良かったですね」 「ああ。メディカルチェックのために来ていたのに、結果的にダイブさせてしまっているのには悪いんだが」 事件は突然だった。メタルの海を定期観測していたダイバー達が、同時多発的に全員ブレインダウンを起こしたのだ。ブレインダウン症例がこのように同時に発生するのは例がなく、更には彼らの深度まで潜れるダイバーも待機していなかった。 その時、波留はメディカルチェックのために電理研に来ていた。それも無事終了し特に目立った異常もなく、電理研内に存在する久島のプライベートルームにて親友との世間話に興じていた。 そこにソウタからの急報が届いたのだ。前例がない事態に、メタルの開発者にして管理責任がある久島はオペレーションルームに急行しなければならない。 そんな彼に、波留は支援を志願した。波留にはソウタからの電通が届いた訳ではないが、久島の慌しい様子から只事ではない事は理解していた。そのために久島と共にオペレーションルームへ向かい、そこで状況を把握した。そして、自分に出来る事をしようとしたのだった。 これは危険な事態である。前例のない事態だけに、まだブレインダウンが発生する危険がないとは言い切れない。しかも複数人が一斉にブレインダウンしたにも関わらず、救助に当たるのは波留独りである。相当に早急に動かなければ全員を無事救助出来ないし、だからと言って焦った場合二重遭難の危険性が高まる事となる。 久島はそれを波留に説いたが、波留の決心は変わらなかった。――海で誰かが死のうとしているのを黙って見ていられる訳がない。彼はきっぱりと親友にそう語った。 そして久島は了承した。実際問題として、現在適当なダイバーは彼ひとりしか居ない。彼が断れば、このまま座して6名の未帰還者を放置する事となる。それは人道上出来ない事だった。 |