太陽は天頂から水平線へと傾きつつある。
 蒼井ミナモは行きつけの事務所のテーブルのひとつから、窓越しにそれを眺めていた。そのテーブルの上には事務所とは一見不釣合いな様々な人形が並べられていて、彼女の席となっている。
 ふと、彼女が周りを見回すと、別のテーブルでは女性型アンドロイドのホロンが、電脳ディスプレイをリアルに表示させて何やら作業を行っている。どうやら事務作業の一環であるようだった。
「――波留さん、遅いなあ」
 つまらなそうにミナモが口を開く。その様子に、ホロンは手を止めた。ミナモの方を見る。微笑を浮かべて言った。
「マスターは電理研にメディカルチェックに行かれましたからね。少しお時間が掛かるかと」
「最近働き過ぎだと思うよ。波留さん」
 依頼がそこそこあるのは事務所を構える身分としてはいい事なのだろうと彼女は思う。しかし、どうもそこには危険が纏わり過ぎているような気がしていた。
 元々何か事が起こったから彼にメタルダイブの要請がある訳で、そうなると危険も織り込み済みとなってしまう。それがミナモには厭だった。金銭面では全く困っていない様子なのだから、少しは断ればいいのにと彼女は思うのだ。
「もしかしたら久島様と積もる話があるのかもしれません」
「それだったらいいんだけど」
 ホロンの台詞に、ミナモは溜息をついた。
 電理研の統括部長である久島永一朗と委託電脳ダイバーである波留は親友同士であるが、お互いの立場上なかなかプライベートな時間を確保出来ていない事を彼女は知っていた。だから、メディカルチェックの際に波留が電理研を訪れると、ついでに久島の元を訪問しているだろう事は想像はつく。
 が、久島は波留にとって、依頼主と言う形を取る事も多い。彼女にとっては面倒事を持ち込んでくる立場の人物だった。勿論彼にも悪気があっての事ではなく、波留も仕事としてそれを受けている事は理解している。しかし、どうも危ない目に遭わされ過ぎている気がしてならないのだ。
 単なる世間話で終わっていればいいのだが、そのまま次の依頼などの話になっていたらどうしようかと彼女は思う。思うが、彼女には選択権はない。全てはダイバーである波留に一任されるし、そもそも電脳化していない彼女は波留のバディであっても出来る事がかなり制限されていた。
 
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