紺碧の海には太陽の光が透過されて来ている。きらきらと輝く水面が波を受けて揺らぎ、その光が海中へと降り注いでいた。
 海中を進むに従いその光は徐々に減算してゆき、色の成分が分解されてゆく。最後に残るのは蒼であり、それも光が完全に失われる深度に至れば消失する。そこに残るは、漆黒の闇のみだった。
 その深海を、流線型の生物が潜ってゆく。滑らかな表皮を持つその生物は尻尾やヒレを器用に動かし、水圧を掻き分けて沈んで行った。
 彼が潜る後から泡が沸き上がって来る。その身体の表面には光を帯びているようにも見える。
 ――実際に、彼が往く深海の向こう側にぼんやりと光が輝いている。その光は深海の闇に染みを穿つように照らし出していた。光と海の境界線は深い蒼に染まっていた。
 着実に泳ぎ潜っていたそのイルカは、遂に光の海へと到達する。
 瞬間、光が走り、イルカを飲み込んだ。
 膨大な光が深海を照らし出し、オーバーフローした。蒼も闇も、全てが消失する。
 その光が消失した時には、イルカの姿も消えていた。深海は暗闇を取り戻している。
 不意に、その暗闇が蠢いた。闇が揺らぎ、深海から波動が発せられた。それが水を押し上げ、打ちつけて伝播してゆく。
 海底の奥深くの闇から、重々しくゆらりと巨大な体躯が姿を現した。
 それもまた流線型の生物の一種ではある。しかしそのフォルムの一部は鋭角的であり、大きな口とそこに生え揃っている鋭い牙がその生物の特徴を示していた。
 常識から外れたサイズのホホジロザメが、深海をゆっくりと漂っている。その口がまるで咆哮するかのように大きく開くと、海水に振動が走った。
 ここはリアルの海なのかメタルの海なのか、判然としない。










第12話
ライトスタッフ
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