横たわり眠っていた波留の喉がひくつくように動いたのを、ジェニー・円はその義眼で見ていた。 その一瞬後、波留は咳き込むような激しい呼気を口から漏らす。顔を抑えるように覆っていた円の右手に、その呼気が掛かった。波留は全身を揺らすまでに大きく一息喘いだ。毛布越しに彼の胸郭が膨らんだのが、円にも良く判った。 さしもの円も驚きの表情を隠せない。思わず、その手を波留から剥がした。 波留は顔を歪め、数度咳き込む。毛布の中に収まっていた両腕を持ち上げ、喉元を手で押さえた。顔を横に傾け、荒い呼吸をする。 それはまるで、溺れていた人間が現世に復帰した直後のような有様だった。今まで彼の呼吸は正常そのものの安らかなものだったと言うのに、彼の身体は突然酸素を欲していた。 ともかく今の波留は、潜水した挙句に何らかの要因によって酸素欠乏に陥り気を失い、そしてそこから意識を取り戻したような状態だった。大きく息をつき、呼吸を整える。 そこに、上から声が降ってきた。 「――…大丈夫ですか?」 穏やかではあるが何処か戸惑うような声に、波留は涙目で見上げる。 彼の前に、ジェニー・円が立っていた。半ばまで右腕を伸ばしかけた状態のまま、彼を見下ろしている。 黒コートの男のその姿を波留は認めた。互いの視線が中空にてかち合う。 「…ええ。多分」 その後波留は口許を歪め、そう答えていた。彼としては微笑んだつもりなのだろうが、未だに苦しいために微妙な表情と成り果てていた。 或いは、彼には別の意図があったのかもしれない。が、それも全て涙を浮かべた瞳の強い印象の前には誤魔化されていた。 |