その庭には、不規則に大小様々な形状の壷や甕が乱立していた。
 それらの口は全てビニールシートで覆われ、紐らしきものできっちりと縛り付けられている。内容物が零れたり心細い太陽光で蒸発したりするのを防いでいた。
 壷達の重量は大したものとなっているらしく、ぬかるんだ大地に下部を僅かにめり込ませている。乾きかけの土は所々でぼろぼろになり、ひび割れ始めていた。
 そこに、11月の北半球の内陸部らしい、冷たい風が吹き抜ける。庭にそびえる大樹がそれをまともに受け、灰色の表皮を持つ枝を揺らした。天頂に伸びる細かな枝がざわざわと音を立てる。
 庭に隣接している屋敷はそこそこ大きい平屋だった。そこに定住する人数はふたりであり、多少広過ぎる間取りだろう。
 しかしここ数日、彼らは空き部屋を他者へと提供している。寒村だと言うのに、珍しくも遠方からの客人が訪問してきていたからである。
 今日もまた、その部屋に彼は居る。しかし状況は昨日までとはいささか変わっていた。その変化はあまり好ましくないと言わざるを得ない。
 客人に提供した部屋の扉の前では、黒髪の子供がふたり揃って立っている。彼らは薄汚れた衣服をその身に纏っているが、血色は良い。健康状態は良好であり、彼らなりの生活を楽しんでいる様子だった。
 しかし今日ばかりは、彼らはその扉に張り付いている。中の様子を懸命に探ろうとしているようだった。その顔には心配の色が濃い。
 彼らは昨日の朝、この屋敷を訪れていた。明ける前の晩に村を豪雨が襲い、大人達がその対処に手一杯だったのを横目に、朝から「彼」に会いに行ったのだった。その彼にもっと、外の世界の話を訊きたい――その純粋な想いが彼らを突き動かしていた。
 そして、実際に彼らは目的の人物を目撃していた。
 彼は庭の大樹の根元で眠っていた。豪雨が一過した早朝からそんな所で寝ているなんて、余程疲れているのか――彼らはそう思った。
 彼らが信頼している「先生」もそれに順ずる事を言ったのだ。ならば、彼らはそれを信じた。寝ているのを起こすのは悪いと思い、そのまま帰ったのだ。
 しかし――。
 今にも泣き出しそうな顔をしている子供達は、その扉の前に立ち尽くしていた。
 
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