暦の上では11月に突入している。北半球ならば、冬の季節であるはずだった。
 しかし南洋に浮かぶ人工島は、常夏の島である。僅かな気温の差こそあれど、強い陽射しが空から降り注ぐのは1年中変わらない。近隣の天然島と違い、地表を覆うスマートマテリアルにより紫外線などの人体に害をもたらす存在は殆どカットされているのが救いではあった。
 人工島は当たり前だが、四方を海に囲まれている。建築物の随所には水と植物が配置され、住民達の心を和ませていた。この島において、水は特別かつ有り触れた存在だった。
 その島の海岸沿いを、少女は歩く。
 彼女は人工島中学校の制服を纏い、肩からは大きなトートバッグを提げている。強い陽射しが彼女の褐色の髪に降り注ぎ、その髪を飾る大きな赤いリボンが歩く度に揺れていた。
 海洋公園へ至る海岸通りは、人工島中学校からは然程近くはない。水上バス路線でも別方向である。道草にしてはやけに遠い。
 そして彼女は独りだった。友達を引き連れて歩いている訳ではない。只、淡々と歩みを進めていた。
 なだらかな坂が彼女の前に続いてゆく。そこは車輌が通れる道だったが、彼女と併走する車やバイクは現状存在しなかった。観光地となっている海洋公園からは外れた場所だからか、人影も見えない。
 やがて、彼女の前に姿を現したのは、派手なネオンサインを抱いた看板だった。
 そのネオンは陽光が鋭い真昼間には流石に点灯はしていない。夜には点灯するのかもしれないが、海洋公園には不釣合いだった。
 彼女はその看板を見上げた。点灯していなくとも、そこに表記された文字は読める。
「――よう、嬢ちゃん」
 不意に声がした。彼女はその声が聴こえてきた前方を見やる。
 看板を掲げるその店舗の自動ドアが開き、小柄な男が満面の笑みを浮かべて右腕を上げていた。明らかにその少女へと呼び掛けている。
 それを認め、少女は微笑んだ。会釈し、彼へと近寄ってゆく。



 それが、2061年11月12日における、蒼井ミナモの行動の一部だった。










第11話
神々自身
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