早朝とは言え、人工島国際空港には既に発着便が往来している。利用客の姿も日中よりは少ないものの、既にちらほらと見えていた。待合室の座席は半ば埋まる程度ではあるが、閑散とはしていない。
 黒髪の青年はいつものように長袖の黒シャツにジーンズとスニーカーと言ういでたちのまま、窓際の席に腰掛けている。人工島の建築物らしく、ガラス張りの壁面からは朝の光が燦々と降り注ぎ、彼の半身を輝かせていた。しかし透過している壁面は特殊素材であるために、断熱性を保持している。陽光をまともに浴びていてもそこまで熱を感じる事はない。
 彼は無表情のままに俯き腕を組んでいた。彼の電脳にはメール作成画面があり、彼はそこで文面をしたためていた。
 彼はしばし意識をそちらに向けていたが、メールの執筆を終えて送信を完了した時点でダイアログを閉じる。顔を軽く振った後にメタルから切断した。
 隣の席には無造作な印象の無骨な肩提げ鞄が置かれており、その上からは人工島にしては不釣合いな長袖のコートが掛けられている。彼はその膨らんだ鞄の中に手を突っ込んだ。その内部から、蒼色の携帯端末を取り出す。
 それを起動した後に彼は指先で様々に画面に触れ、何らかの操作を行う。それらを終了してから、彼は再び端末を鞄へと押し込んでいた。
 女性アンドロイドの声質で、アナウンスが待合室に響き渡る。ホールの上部に掲げられている案内板では、航空機の発着情報が更新されていた。
 彼はその画面を見上げる。そして軽く頷き、席を立った。コートを小脇に持ち、肩提げ鞄のストラップを肩に掛ける。荷物を身体に引き寄せ、座席群から歩みを進めて行った。その先には各方面への搭乗ゲートが並んでいる。
 エントランスホールの半ばで、彼は足を止めた。ふと振り返る。その視線の向こうには、ガラス張りの空と海があり、更に先には人工島が存在する。
 彼はそれらを瞳に映し出す。その瞳の色が、一瞬翳った。
 やがて興味を失ったように、彼は前を向く。そのまま人通りの中へと足を進めて行った。










第10話
ギフト
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