空では流星が断続的に襲来している中、彼は商業ビルの屋上に立っていた。
 この区画も例外なく消灯勧告がなされているために、ビルに入居しているそれぞれの店ではキャンドルナイトを楽しんでいる。窓からはその仄かな灯りがぼんやりと現れていた。
 そのように地上ではいつもの日常を僅かに変化させて過ごしている人々が居るのに対し、ビルの屋上には流星を一目見ようとする人々がたむろしている。
 背の高い建築物が存在しない人工島では、単なる商業ビルであっても充分に天体観測に用いる事が出来ていた。もっとも、こんな場所に居るような人間は単にショーとして流星を楽しむ人々であり、その観測の精度などは一切気にしていない。大小問わず流星が落ちる度に、各々が歓声を挙げていた。
 その人ごみに紛れ、只独りが流星以外のものを見ていた。空は広いために彼の視線が違う方を見ているにせよ、誰にもその違いは判らないしそもそも誰も彼を気にも留めていない。
 ――…今、送った画像の通りだ。
 彼はその方角を見やりながら、淡々と電通を送信していた。
 ――この距離では望遠プログラムで補正掛けて何とか判別出来る程度だが、確かに久島部長はあのメディカルセンターに居る。時間は掛かったが、ようやく見付けたよ。
 瞬きもせずその方角を見据えたまま、彼は僅かに顔を伏せる。
 彼が見ている方角には確かに電理研付属メディカルセンターが存在し、彼はその隔離病棟の屋上を捉えていた。肉眼では一切の細部は把握出来ないが、彼は電脳内でプログラムを走らせている。そうする事で、生身の眼球であっても望遠機能と画像補正を行う事が可能だった。
 そして彼は自らの電脳に、自分がその目で見た物をデータ形式で保存している。それらを選別し、切り取り加工し、電通で送付していた。
 ――…さっきまで屋上に居たけど、もう引っ込んじまったよ。流石に今からあの中に突っ込むのは、電理研が誇るセキュリティもあるだろうし厳しいだろうな。付き添いは女の子ひとりだから、そっちは大した邪魔にもならんだろうけどさ。
 そこで彼は目を細める。電通を受け、頷いた。
 ――判った。監視を続けつつ、俺も準備するよ。お前らもどうにかしてくれよ。俺は頭脳労働専門だから、それ以上は働く気はないからな…只でさえあんな化け物相手に誤魔化さなきゃいけないってのに。
 彼は踵を返す。フェンス越しの場所を、他の見物人に譲った。そのまま人ごみの中に紛れてゆく。そして誰かに電通を飛ばすまでもなく、心の中で呟いた。
 ………ちょっと遠回りになったけど、部長の親友を張ってたのは、間違いじゃなかったな。
 人ごみに姿を隠す刹那、夜空に彼の銀髪が煌いた。










第7話
飛べない翼
- utter -

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