私はメディカルセンターの待合室に座っていた。診察用の服を纏ってはいるが、それに大した意味はない。今回は私はこの義体のメンテナンスを行うつもりではないのだから。
 隣に居る少女はその背格好に似合うサイズの女子用診察服を着ている。彼女もここに来るようなタイプではないのだが、どうやら今日ばかりは一大決心をしてやってきたらしい。
 それは、興味本位だった。別に私は彼女に翻意を促すつもりはなかった。
 彼女は15歳の少女とは言えひとりの個人であり、未成年者であっても私がその決断に介入する事などあってはならない。親族ならば家族会議と言う名目で諭す事もあるだろうが、私は年長者とは言え只の知り合いに過ぎないのだ。
 何故今更電脳化を考えるのか。そこにはどのような覚悟があるのか――そこを微妙に突付いたつもりだったのだ。
 それを彼女に語らせるために私は自らの経歴を適当に騙ったりもしたのだが、そこはそれ。嘘も方便である。――いや全く、便利な言葉だ。
 確かに私は嘘をついたが、偽りばかりでもない。「私が着こなせない服を見事に着こなしてみせる親友」に対して羨望を抱いているのは、真実である。全てが嘘ではないのだから、そこには真実味が感じられるだろう。
 彼女は、波留のためには何でもやりたいと言った。
 私はそれを、浦島爺さんへの同情かと訊いた。
 意地悪な問いではある。しかし一時の同情で、自分の人生を固定してどうすると思うのだ。一時の熱情が醒めた後に残るものとは?或いはそれは醒めない夢なのか?
 そこに、彼女は叫んできた。解答を私に突き付けてきた。
「――声が聴きたくて、傍に居たくて。――好きなんです。波留さんの事が」
 ――…結局、私は訊かなくても良い事を訊き、藪を突付いて蛇を出してしまった事になる。
 それが、私の今後の道程すらも決定付けたのだから。
 私はもうリアルに居なくてもいい。
 ――彼女が、波留の傍に居るのだから。
 
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