電理研の部長オフィスに入室出来る人員は限られている。
 それはその部屋の主を警備対象とするだけではなく、部屋のメタル自体に最高機密が含まれているからでもある。そう言う状況を利用する事も多い。
 そしてその部屋の現在の主たる統括部長代理蒼井ソウタは、そのモノリス状のデスクに静かに着席していた。テーブルに両肘を突き、その両手を組み合わせてその上に顎を乗せて沈黙している。瞼を伏せ、じっとしたまま動かない。
 やがて、彼はその瞼をそっと上げた。閉ざしていたリアルの視界を回復する。そして溜息をつく。口の中が乾いている事を自覚した。
 今まで彼は、アバターを用いた会議に参加していた。広大な電理研内にて、要職達は自らのオフィスから離れる事無くメタル内に構築された会議室を利用し、そこに自らのアバターを送り込んでまるでリアルのように会議を行う事が多い。
 ソウタもそれに慣れつつあった。統括部長付秘書との待遇であった頃から、たまにアバターを用いての会話は行っていた。それが電理研職員の常ではある。しかし、今となってはリアルで顔を突き合わせる事の方が少ない。生身の人間とまともに会うためには、リラクゼーションルームを訪れる他なかった。
 彼は溜息交じりに両手を解く。顔を左右に振った。
 そしてデスクの傍らにある棚の方を向く。右手を伸ばし、その引き出しのひとつを引いた。
 そこには様々なものが整然と収納されている。その中で彼は、銀色の腕輪に目を奪われていた。それはこのオフィスには似つかわしくない装飾具である。それが何故かこんな所に置かれている。
 彼は一瞬、それに手を伸ばしかける。が、すぐに思い留まっていた。黙りこくったまま、引き出しの左半分に目立つように置かれている白い便箋の綴りを手に取った。それをモノリス状のデスクの上に置く。
 次いで引き出しの中から更に取り出したのは、万年筆だった。彼はそれも手に取り、引き出しを閉める。そして上体をデスクに向け、きちんと席に座り直していた。
 ――メールでもいいが、手紙の方がいいか。
 彼はそんな事を思いつつ便箋のページを捲り、万年筆の蓋を開けた。










第6話
光の庭
- unison -

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