突然の行動に慌てるのは僕だ。まるで女の子のように抱き上げられる格好になり、少し恥ずかしいのもある。思わず手足を動かしそうになってしまうが、両足はまとめられてしまっているので傍目からは殆ど動いて見えなかっただろう。 成程、確かに両足をこんな風にマントで包み込んでしまったら、患部も動かさずに済むから回復も早いかも知れない。妙な所で感心してしまう。 が、そんな場合ではない。彼は僕の行動など全く気にする事無く、歩みを進めつつあったからだ。僕はそんなに軽いのか、それとも彼の力が凄いのか。彼は僕を腕の中に抱いているとは思えない程にしっかりとした歩みで進んでいく。 僕の目の前で、彼の胸元の銀の彩りが月明かりに照らされて光を帯びている。その上には彼の顔があり、彼は前方を真っ直ぐ見据えている。顔に少し緊張が表れているように見える。一応警戒をしているらしい。確かにさっきの野犬のように、目に見える危険ばかりが迫るとは限らない。ならば、やはり僕は邪魔だろう。 「――僕を連れて行っても何の得にもなりませんよ!」 僕は彼にそう訴えた。すると、彼はぴたりと足を止めた。小首を傾げ、僕を見下ろす。 「得?」 短い言葉が彼の口から出た。それに対して僕は言葉を続ける。 「だって僕は歩けないから、足手まといになるから」 ――言い訳みたいな台詞だ。僕はふとそんな事を思う。 しかし正しい判断だろう。僕を連れていたら彼には迷惑だろう。ともすれば共倒れになりかねないだろう。でも、何故言い訳みたいに感じるんだろう。 僕はこの人の傍に居たいから。居たいけど、その気持ちを誤魔化しているから――なのだろうか? 僕は――そうなのだろうか?僕は混乱している。 夜の空気は冷たくなってしまっている。マントに覆われた足が暖かいし、僕を抱く彼の腕から伝わる体温も気持ちいい。しかしそれに頼ってしまってはいけないと、思う。 僕を見下ろす彼の口元が微笑を浮かべている。瞼をやんわりと伏せ、そしてゆっくりと開いた。グレーの瞳が僕を見つめる。微笑んではいるが、どうやらその瞳には真剣さが現れてきたようだった。 そして、彼の口から台詞が発せられた。それは、ゆっくりと僕に言い聞かせるような、それでいて全く押し付けがましくない、そんな口調だった。 「そんな事ないよ。俺独りじゃゆっくり休めもしないし火の番も出来ない。でも交代で休めばいい。君が起きていてくれたら俺はその間眠れる。勿論逆も出来る。俺と君は対等の相手だ。そう思えばいい」 |