今度は僕が目を丸くする番だった。口から驚きの声が漏れる。もう、素の気持ちのままだった。 「つ、連れて行くって、何処へ!?」 ――彼は単なる通りすがりだろう?犬に襲われていた僕を助けてくれただけだろう?それ以上、一体何をしてくれると言うのだ?僕に何の価値があると言うんだ? 僕は、親に捨てられた、下らない子供なんだ。彼はそれを知らないだけなんだ。 僕はそう思う。彼は妙な義侠心に駆られて、僕を救おうとしているだけなんだ。でもそんなもの無意味なんだ。 「いや、歩けばそのうち開けた場所にも出るだろうと思って」 僕の混乱をよそに、彼はマントの端をようやく結び終わったらしい。満足げに笑っている。そして僕を見て事も無げにそう言った。 「どう言う事ですか?」 僕には新たな疑問が湧いてくる。――僕は確かにここが何処か全く判っていない。でも、彼もそうなのか?これは一体どういう状況なのか? と、彼は自分の髪に手を掛けた。前髪をくしゃっと掴んでがさがさと掻き回す。収まりがない髪がますます広がっていった。大人らしくない仕草だ。癖なのだろうか。 「君もどうやらそうみたいだけど、俺もここが何処か判らない」 そして彼はさっぱりとそんな事を言ってのけた。僕が思っていた事と同じ事だ。しかし彼は苦笑を浮かべていて、本当に困っているのかは謎だった。 とは言え僕も今まで本気で困っていたかは謎だ。しかしそれは、とりあえず生命の危機を脱しなければならなかっただけの事だ。ひとまずそれから脱した今、今後の事を考えなければならない。ここは何処なのか。どうすれば脱出出来るのか。これから暫くどうやって過ごすのか。――それらを現実味のある考えにしなければならない。 不意に、僕の頭に手が置かれた。彼の大きな手が僕の髪を梳く。顔の半分、右目の辺りを覆う包帯にも微かに触れるが、意識的な事ではないらしい。それでも僕の隠れた瞼に、彼の指の感触が微かにでも伝わってきたような、そんな気がした。 そして彼は僕の顔を覗き込む。僕の青い目に、彼の大きな瞳が映った。――ああ、この人の瞳の色はグレーなんだな。ようやく判った。本当に優しそうな色だ。柔和な色彩を浮かべる瞳を細め、彼は僕に言う。 「まあ野犬もいたし他に鳥とかもいるようだから、動物が生存できる環境ではあるらしいよ。だからその気になれば人間もどうにか生きていけるだろうし、無人星にしても宇宙港を発見したら脱出は可能だろう」 悩んでいても仕方がない。そう言いたげだ。でも、かなり大変な事を言っていないだろうか? 唐突に彼は立ち上がる。僕に腕を伸ばした。僕を両腕で抱き上げる。膝と腰を支え、僕を軽々と持ち上げていた。 |