実の所、最初に会った時に彼女を認証しなかったのは、単なる意地だった。大した考えがあっての事ではない。久島のされるがままにされるのが、何だか厭になっただけだった。 しかし、今は違った。 彼女に確かめたい事があり、それを確認したからこそようやく、認証出来た。 君が潜ってくれたら、僕はとりあえず死を選ばずに済むだろう。一旦感じてしまった死への誘惑を忘れる事が出来るだろう。 僕の代わりに君が潜る事で、もう何も出来ない僕にも海を感じる事が出来るかもしれない。それを期待して、彼女に頼ろう。海を感じ、知ろうとする限り――それが出来ると期待したい限り、僕は自ら死を選ぶ事はない。 それは、僕をどうあっても死なせたくはないらしい久島のためにもなるはずだ。 しかし、僕はもう久島に協力するつもりはない。僕は僕で、知りたい事があるのだ。だから、邪魔をされたくない。 これは、もしかしたら、意地を張り続けているだけなのだろうか? ――波留はそんな事を思っていた。 |