アイランドの介護隔離病棟において、波留真理と言う患者は浮いている類の人物のひとりであった。
 元来、老人ともなれば頑固な者も多く、この病棟にて形成されたコミュニティに溶け込めない人物も彼の他にも少数ながら存在する。そんな彼らも介助員が巡回しているために、ケアはきちんとなされているものだった。
 波留はこの施設には、彼の意思で来た訳ではない。それもまた、彼が浮く原因のひとつであるようだった。とは言え、家族によって厄介払いされて嫌々施設送りになった訳でもない。彼の意思を確かめる術もなく、眠った状態のまま運び込まれていた。
 そして遂に彼が目覚めた時には、病棟は大騒ぎになったものだった。しかし当の本人は黙り込んだまま、自らの事を語らない。50年間眠り続けたためか歩行が不可能となっていたために、車椅子を頼りとして海が近いテラスを定位置として毎日を過ごすようになる。他の患者の老人に話し掛けられても、一旦は笑顔を返すが真に心を開く様子もなく、次第に誰も彼を気にかけないようになっていっていた。
 介助員の指示には素直に従う辺りが他の偏屈老人とは違う点であり、その点により施設側からは特に問題視される事なく現在に至っている。

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