ミナモが訪れた時、波留の姿は見当たらなかった。 少女が顔を巡らせつつ足を進めて行くと、ソファーに横たわっている男の存在を目に留めた。 彼は横倒しに寝転がり、腕を折り曲げて枕としている。脚を曲げて若干縮こまっているような印象で、長いソファーに身体を収めていた。スニーカーは脱がないままだが、その底が汚れている様子もない。爪先のみをソファーの領域から外側へと突き出していた。 その瞼は伏せられており、前髪が目許に掛かっても気にも留めない。髪も解かず、そのまま寝てしまっているようだった。 そんな青年の様子に、ミナモは視線を落としていた。 見るに、彼の頭の先には多少のスペースが余っている。彼女はそこをちらりと見た後に、右手を伸ばした。そのクッション地を数度触り、払う。 そして、そこにちょこんと腰を下ろした。 ミナモとしては慎重に重心移動したつもりだったが、ソファーが僅かに揺れスプリングが軋みを上げた。それに反応し、身じろぎする。 慌てた風にミナモは傍らの青年の顔を見た。――耳元にスプリングの音が聴こえたら、起きてしまうかもしれない。そう危惧したからだ。 しかしそれも杞憂に終わる。黒髪の青年は一向に目覚める気配を見せなかった。 それに、ミナモは安堵の溜息を漏らす。そして青年の顔をしばし見守った後、すっと顔を上げた。 少女の顔を、夕陽のオレンジが照らしてゆく。 室内は沈黙に満ちていた。 第15話 寄る辺の海 - umbralla - |