そのお世辞にも肥沃とは言えない惑星に、帝国軍は前線基地を築き上げていた。簡易素材ながらも兵士や士官用の宿舎が建設され、宇宙港として使用出来るポイントも設定されていた。そこで後方からの支援物資を受け入れつつ、戦場へ陸戦部隊を送る揚陸艦がその時を待っている。
 オスカー・フォン・ロイエンタール、ウォルフガング・ミッターマイヤー両大尉が揃ってこの基地に着任して1ヶ月が過ぎていた。
 戦乱の世の必然として、能力がある者は武勲を立てた時点ですぐに出世していく。しかしその出世もある程度の段階で頭打ちになるのも常である。そんな状況下においても、士官学校を出たばかりの少尉ならともかく、20代も前半と言う年若い大尉が同時に前線に着任とは、相当にきな臭いものを感じ取った人間も基地内に少数ながらも存在した。しかしその少数の彼らもわざわざ自分から火中の栗を拾いに行く事もなく、結果的に両大尉は表面上は普通に部下や上官に受け入れられ、平々凡々と日々の任務をこなしている。
 彼らが着任した時点で前線では膠着状態が続き、帝国軍・叛乱軍の双方共に出血戦の様相を呈し始めていた。戦力とは有限である。そのため、先を見通せない戦闘を続ける事は人的資源の無駄である事を両陣営共が悟り、どちらからともなくそれぞれの前線基地へと撤退を行い今に至る。現状の帝国軍前線基地では後方からの物資や兵士の補充を受け、数ヵ月後になるであろう次への戦いへの準備を行っていた。そしておそらく敵方の叛乱軍でも同じ考えを抱いているとの予測も立てられている。
 次の戦いが待ち構えているとは言え、軍人にとってはつかの間の一時である。訓練や演習のスケジュールは詰まってはいるが、実際に命のやり取りをしないと言うのは気持ちの上で大きかった。
 その日の夜、ロイエンタールとミッターマイヤーは、同僚の尉官2名も合わせ、士官用食堂にてポーカー兼雑談を楽しんでいた。夕食時は過ぎ去った時間帯とは言え、娯楽が殆どない前線基地と言う立地条件のため、客の数はテーブルが埋まってしまう程に多い。
 彼らのテーブルの上には人数分のコーヒーが揃い、更にはポットが鎮座している。ちなみにこの前線基地は首都星系から相当遠いために必要最小限の物資しか届けられない。そのため、ワインのような嗜好品は士官用食堂においてもメニューに並んでいない。それでも、前線の戦いを経験している彼ら尉官は、コーヒーだけでも充分に和む事が出来ていた。

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