右目は痛くない。しかし、それ以外の、僕の体のあちこちが軽い痛みを発し始める。
 一番痛くて尋常じゃないのは左足首でそれは変わらない。体のあちこちから感じられる痛みもそれ程きついものではなく、普段の生活でちょっとどこかに強くぶつけたとか、そんな程度だと思う。
 それでも、箇所が多い。僕は痛い箇所をそれぞれに掌で擦っていく。掌の温かさが多少は痛みを軽減していく。しかし、普段から痛みに慣れているのならばともかく、僕はこんなに痛みには――。

"お前など生まれてこなければ良かったのだ。"

 …嫌な台詞が思い出された。
 そうか。僕にはようやく判った。
 あのひと達が、僕をこんな風にしたのかな。
 彼らは僕に対して嫌な台詞を言うのは常だし、たまにはそれを発しながら僕を殴る事もあった。そして今回、遂にあのひと達が嫌ってやまない、僕の右目をこんな風にしたのかな。潰したのか抉ったのか、それとも只塞いでるだけなのかは判らないけれど。
 僕はそうされて逃げたのか?それとも彼らがここに僕を捨てたのか?
 判らないけれど、僕はここにこうして独りきりにされてしまっているのは、確かだ。
 こんな目に遭って初めて、僕はあの家から解放された。僕はもう自由だ。でも体が痛いし、足を痛めてるから自由に歩く事も出来そうにない。何処とも判らないこの草原か何かで、僕はどう生きていけばいいと言うのだ。
 あの家に居た時も、結局は僕は独りきりだった。しかし周りには世話をしてくれる使用人が居た。
 今回は、本当の意味での独りきりだ。僕の周りには誰も居ない。自分の事は自分でするしかないし、自分で出来るのかも判らない。
 ――野垂れ死んでしまえと言う事か。
 そうだ、僕を救ってくれる人間なんか居る訳がないんだ。僕なんて、下らない子供を愛してくれる人間なんか、居る訳がないんだ。じゃあここで死んでしまった方がいいんだ。
 …そう思いながらも、僕は体を引き摺って、腕を使って前に進む。草むらを掻き分けて、匍匐前進のような感じで、腕だけの力で体を進める。露出している手や顔に草が当たってちくちくするし、服の繊維の合間からも侵入してくる。
 とりあえず、何処かに立木とか、洞穴とか…人間が身を隠して休める場所はないだろうか。僕はそれを探そうと思った。空は既に薄暗い。完全に夜闇に包まれるのもそう遅くはないだろう。今の季節、夜になると冷え込むかもしれない。
 結局、死にたくないらしい。
 馬鹿だな僕。こんな目に遭ってもまだ、死ねないのか。皆から必要とされていないと判ったのに、死ぬ度胸がないのか。
 …自分に対して苦笑したくなった。

[next][back]

[NOVEL top] [SITE top]