帝国士官学校
 半ば開かれた状態の扉の間から大きな声が聞こえてくる。彼はその声に足を止めた。

 士官学校は将来国防を担うエリート達を輩出する事を目的としている学校である。そのために時間的にもかなり厳しいカリキュラムが定められている。もっとも門閥貴族の一族ともなればその辺りにも融通が利いてしまうのが常ではあったが、それでも他の学生にとっては厳しい学校である。
 流石に夕方近くともなれば、校舎に残っている人間は少ない。夜にも授業が残っている生徒もいるが、それらは夜間訓練であり外での指導となるためである。
 今、廊下で足を止めた生徒は膨らんだ鞄を提げている。廊下の窓から差し込む夕陽を彼の長身が遮り、廊下に長い影を映し出していた。彼は扉から少し離れた所に立ったまま、ダークブラウンの頭だけ少し傾けて室内に視線を寄越す。その瞳は一見興味なさそうな様子だったが、実際に立ち止まって視線を向けている現実がそこにある。
 扉の間から垣間見える部屋は小さめの教室だった。その中には5,6人の人間が見かけられる。どうやら教壇の前にたむろしているらしい。
 その中でひとりが電光ボードに向かって色々と書き込んでいる。ボードに表示されている図形や記号や注釈などを見るに、話の内容は艦隊運用に関してだろうと廊下から眺めている彼は解釈した。
 ボードに対して色々と書き込み、表示されている艦列の類を操作している男は紛れもない士官学校の制服を着ていた。彼は身振り手振り激しく、その他の生徒達に自説を展開している。派手な身振りの度にオレンジ色の長髪が微妙に翻る。他の人間達も教壇の周りに集まっているというのに、彼は過剰に大きな声で喋っていた。そのために、廊下の人間にまで会話内容が筒抜けである。
 ダークブラウンの髪の士官候補生は暫く廊下に立ち尽くしたまま、室内の声に聞き耳を立てていた。が、そのうちに正面に向き直る。――何をしているのだ俺は。そう言いたげな表情になり、薄く微笑んで顔を軽く振った。その拍子に、綺麗にセットされていた前髪が軽く額に落ちる。彼はそれを掻き上げた。そして彼は人知れず教室の前を後にした。

 …確かに、ある程度の興味を惹く戦術ではあった。しかし、奴の初撃さえ耐え抜けば、最後に勝つのは俺だな。
 彼は歩きながらそう考えていた。
 そして一瞬後、そんな考えを抱かされていた事に気付いた。
 俺は士官学校に来てから今まで、教官相手にすら負ける気がしないのではなかったか?相手の戦術に対して思考を巡らせた事が今まであったか?今までは直感的な運用でも相手を手玉に取る事が可能だった。何故こんなに簡単な事が、相手には出来ないのかと思っていた…。
 ………どうやら思っていた以上に、この銀河系は広いようだ。実戦すら経験していないと言うのに俺は思い上がっていたようだな。それ以前にこの士官学校でも、シミュレーション戦でああいう出来る奴と当たるかも知れん。その時を楽しみにしつつ、気を引き締めるとしよう。
 彼は目を細めて、喉の奥で少し笑った。
 挿絵はこちら

 放課後の教室で戦術論ぶちかますビッテンフェルトと通りすがりのロイエンタール。以下続く。

 士官学校で同期なんだからちょっと位接点あっても良かろう。お互い積極的には絡みそうにないかもしれないけど。つーか士官学校の制服が判らないので捏造しますごめんなさい。
 実はアニメ見ていた時にはビッテンフェルト好きだったんです。今でも好きだけどさ。だからこんなもん書き始めた。
 …今気付いたんだが、元々1本のSSの予定だったのを分割したって事は、絵も2枚描かなきゃならんって事か?うわあ…しんどいから「絵は必ず描く」って縛りつけるの止めようかなあ。大体「好きで描いている」んだから、わざわざ絵をでっち上げようとするのはおかしいんだろうし。

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