その時には - infect -
 じっとりと滲んでいた汗を拭き取られてすっきりとした身体に触れる衣服は柔らかで心地良い。頭は相変わらず熱っぽく身体のあちこちが痛いままだが、酷く不快な状況ではなくなった。
 そんな状態の波留がベッドに深く身体を預けると、今日は全く結んでいなかった白髪が枕の上で広がっているのを感じる。何となく息苦しくなって一息吐き出すと、喉を熱い息が通っていった。
 顔を傾けて視界を変えると、ベッドの向こうで少女がタオルを絞っている。そこにある中型のバケツに入っているのは、程よく暖かいお湯であるはずだった。
「――波留さん、大丈夫?」
 彼の視線に気付き、少女は歩み寄ってきた。そして気付いたように、彼の身体に掛かっていた毛布を肩まで上げてやる。
「ええ、お陰様でかなり楽になりましたよ」
 上げられた毛布を見やってから、波留は笑顔でそう答えた。若干冷たくなっていた肩が再び温まるのを感じる。しかしその声は掠れ気味で鼻声でもあった。そもそも今は6月であり、南国で温暖な気候である人工島において、毛布と言う季節でもない。
「風邪引くなんて、大変だよね」
「ここ数日、夜風に当たり過ぎましたかねえ…」
 しみじみと言った感で言うミナモに、波留は苦笑していた。
 ついつい海を感じながらテラスで読書をしていると、時間が経つのを忘れてしまうのが彼と言う存在である。そのまま夜を迎え薄暗くなったテラスにまだ居座っていると、ホロンにやんわりと注意される日々が続いていた。
 そうしていたら今朝、彼はベッドで目は覚めたものの、酷い頭痛と熱っぽさに悩まされる状況に陥っていたと言う訳である。
 普段の朝は自分で目覚めた後にホロンを電通で呼ぶのが常であるが、今日に限って朝遅くなってもホロンの元にその電通が来なかったために、彼女が寝室に顔を出した時点でそれが発覚していた。
 介助用アンドロイドとして、ホロンには簡易的な診断機能も付随されている。本格的な医療行為装備は法的に許されないために搭載されていないが、掌をインターフェイスとして体温や脈拍などを測定する程度の事は可能となっていた。その結果、単純に「風邪ですね」との診断が下されている。
 そもそもホロン自身も波留がここ数日夜風に当たっていた事を知っている。それが主要な要因として風邪を引いたのだろうと結論付けていた。現在彼女は買い出しに出掛けており、入れ替わりにやってきた学校帰りのミナモが波留の看病に掛かっている。



 水に濡れた手の感触が波留の額に来る。ミナモの右手が彼に触れていた。水気が徐々に気化して彼の熱を奪って行き、熱い額には心地良い。
「…まだ、熱は高いみたい」
 ミナモは左手を自分の額に当て、較べていた。そして彼女はそう結論を出した。波留は視線を上げて、彼女を見やる。
「寝ていたら大丈夫ですよ」
「薬は飲んだの?」
「市販薬なら救急箱にありますが、普段僕が飲んでいる薬剤との兼ね合いが判りませんからね。別の薬を合わせて飲むのは止めた方がいいかと」
 ミナモは波留の額から手を離した。彼の顔を覗き込む。そこには心配そうな色があった。
「なら、病院行ってきちんとした薬を出して貰った方がいいんじゃ?」
「風邪ですからそんなに大事ではありませんよ。それに…」
 波留は躊躇いがちに言葉を切っていた。それにミナモは怪訝そうに訊く。
「…それに?」
 波留はすぐには答えない。少し、ミナモから視線を反らす。その態度にミナモは小首を傾げた。
「…これがばれたら、久島にまた叱られます」
「……あ、そっか」
 視線をずらしたまま、小声で発せられた波留の台詞に、ミナモは納得した。手を合わせて頷く。
 ――ここ数日、夜風に当たり過ぎて風邪を引いた。病院に行った時点で確実に、この事実は、波留の保証人である久島に届くだろう。
 そして、仮にこの事実がその相手に知れたと仮定すると、V-TOLと言う名称の電理研保有の航空機兼潜水艇がこの事務所の前に飛んでくる姿が彼女の脳裏に浮かんでいた。
 それは今までに2回、彼女が現実に目撃している光景だった。人工島はテロ対策のために厳しい航空管制が敷かれており、空路を利用出来るのは電理研の他には警察やレスキューの類のみなのであるにも関わらず、である。
 おそらくこんな体験をして来ている女子中学生は他に存在しない。しかも彼女はその2回とも、V-TOLに搭乗しているのである。その3回目があるならば、おそらくまた搭乗する事になるだろう。
「…それでなくても、今日来ないよね?久島さん」
「……来ない事を祈りたいものです」
 恐る恐る尋ねるミナモに、波留は沈黙の後に願望をもって答えていた。
 電理研の統括部長と言う人工島を代表する人物である久島は、やけにフットワーク軽くこの事務所にやってくる事がある。彼らはそれを危惧していた。
「ホロンさんは?」
 ふと、ミナモはアンドロイドの名前を出す。彼女はそもそも電理研から貸与されている介助用アンドロイドであり、久島がシステム管理者であった。彼女の現在のマスターが波留であるとは言え、久島との繋がりは未だに切れていない。普段から良く電通は行われている関係だった。
 だから、彼女から久島に話が伝わっている可能性はある。彼女はその考えに至る。
「口止め済みです」
 しかし、波留にぬかりはなかった。アンドロイドは人間に従う存在である。その命令の最上級の地位に存在するマスターの指示は絶対であり、それに逆らうアンドロイドは基本的に存在しない。逆らうケースは、命令の解釈が人間との間に齟齬を生じたか、AIが破損したか、そう言う事であった。
「なら、大丈夫だね…久島さん自身が来なければ」
「ええ、久島が来なければ」
 やけにふたりで強調して納得し合っていた。



 基本的にこのベッドは電通による自動制御だが、手動での操作も可能だった。電脳化していないミナモによる手動操作により、ベッドは軽くリクライニングして起こされる。波留は背中をベッドのクッションに預けたまま、上体を少し起き上がらせた。
 そして波留はミナモからドリンクボトルを手渡される。小型のその表面は冷たい。ストローに口をつけ、軽く吸うと冷たい液体が喉を通ってゆく。味からしてスポーツドリンクの類のように彼には思われた。
「汗を掻いたんですから水分補給はしなきゃ」
「そうですね」
 波留は頷いた。それが風邪を引いた時の基本である事は彼も知っている。あれ程汗を掻いていたのだから、それだけ水分とミネラル分も失われているはずだった。それをこのスポーツドリンクで補う事とする。
 軽く吸い上げ飲んだ時点で彼はストローから口を離した。ミナモの方を向き、笑って言う。
「起きたついでですから、いつもの薬を飲もうと思います。白湯を持ってきて貰えますか?」
「うん、判った。薬は何処?」
「ホロンがそこの棚のケースに準備してくれていると思います」
 波留の台詞が終わらないうちに、ミナモはサイドテーブルの上に置いてある小さな棚を探し、薬のケースを見付け出す。1回分の薬剤が掌に収まるサイズの透明な四角いケースに入れられていた。
「はい、これ」
「ありがとうございます」
 ミナモはそのケースを差し出し、波留は頷いて空いている片手でそれを受け取った。揺れた拍子に内部の錠剤などがケースに当たって微かな音を立てる。
 そしてミナモはきびすを返す。持ってきていた洗濯籠に今まで波留が着ていた衣服を詰め込み、それを両手で持った。
「お白湯持ってくるついでにこれ、洗濯機に入れて来るね」
 ベッドに座っている波留を振り向き、元気にそう告げる。そして彼女は部屋を出て行った。波留はストローを口に含んだまま、その背中を見送っている。



 それ程時間を掛ける事無く、少女はコップ片手に波留の寝室へと戻ってきた。彼女はコップに両手を添え、波留に差し出す。
 波留に渡されたその中にはある程度冷ました状態の白湯が入っていた。波留の両手が触れるカップからも熱い感触はしない。そして彼は薬のケースを開けていくつかの種類の錠剤やカプセル剤を取り出し、その白湯で服用してゆく。その間、ミナモは空になっていたドリンクボトルをベッドからどけたりしている。
 薬を全て飲み終わった波留は手元のケースを閉じる。そしてミナモが行っているその光景を眺めていた。
「波留さん、何か他にする事ある?」
「いえ…今の所は何も」
「じゃあ、もう寝た方がいいね」
 波留から特に要求が来なかった事もあり、少女はてきぱきと動く。波留の手から空のコップを受け取り、そのまま手動でベッドを倒した。再び波留の身体が横たわる。
「…ミナモさん」
「何?」
 ミナモは名を呼ばれて答えつつ、波留の身体に毛布をかける。
「助かりました。こう言う事も出来るんですね」
 ミナモを見上げた状態での感心した風の波留の口振りに、ミナモは思い切り肩を落とした。
「波留さん…私、元々、介助実習生として波留さんと会ったんだよー!?」
 確かにミナモは単なる女子中学生で介助専門の学生ではない。しかし実践的な教育の一環として介助実習に参加した以上、ある程度の介助に関する教育をこなしている身分だった。
 あの時アイランドに介助実習のためにやってきて、波留と出会った際には、実際の介助の経験はない。それでも教師や生徒同士との訓練や座学などは経ている。中学生としての狭い世界なりに、自信はあったのだった。
「…ああ、そうでしたね」
 しばしの沈黙の後、波留は思い出したように言う。つい2ヶ月前の話なのに、彼にはもう随分昔のような気がしていた。今では、彼女の存在はあまりにも自然に彼の隣にある。
「あの時も自信があるって、私言ったじゃない」
 と、ミナモはあの時のように腕を曲げて力こぶを作ろうとしてみせた。しかし只の少女であるミナモにはそんなものは出来ない。
 少女のそんな様子を、老人は相変わらず見上げている。そして淡々と言った。
「申し訳ありません。あの時から、あまり信用していませんでした」
「そんなあ〜!」
 ふたりはまるであの時のようなやり取りを繰り返していた。



 波留はベッドに横たわり、瞼を伏せる。少し頭を動かして枕に落ち着かせた。毛布の中で、胸の前で手を組む。眼の奥が熱い。体調は悪いままだからか、少し震えが来た。
 不意に額の辺りに冷たい感触がした。布状のものが額に置かれている。そこにある湿っぽい感触から、そのまま冷たい液体が額や瞼の辺りまで垂れて来るのを感じた。彼は瞼を薄く開けると、瞼の上に水分を含んだタオル地が掛かっているのを見る。
 ベッドサイドには、ミナモが洗面器を持ち込んでいた。そこには氷が張られた水が入っている。タオルはそこに浸けられ、軽く絞った後に折り畳まれ、波留の額に置かれていた。
 彼は水気が前髪に染み込むのを感じていた。髪を伝って水滴が肌に垂れてくる。しかし熱が篭った額や目許を冷やされると、心地良い。2,3回折り畳まれたタオルで丁度目許が隠れている格好になり、薄闇が彼の瞼の奥に見えた。
 鼻が詰まっていて呼吸が辛い。口から通る息が熱い。耳元に掛かる髪に水気が伝ってきて、その辺りを濡らす。
「――ミナモさん」
 掠れた声で少女の名を呼ぶと、ベッドサイドで身じろぎするような音が聴こえてくる。
「…波留さん、まだ寝てなかった?」
「ええ」
 彼にはタオルに隠れて見えてはいないが、少女の気配は感じられた。静かな室内だが少女がそこに居るのを彼は理解していた。
「もしかして、私って邪魔かなあ」
「そうではないですよ」
「波留さんに何かあったら心配だから、ここに居るんだけど」
 彼の耳には困ったような声が聴こえてくる。
「ホロンさんっていつも、さりげなく波留さんの傍に居るよね。私ってあんな風に出来ないのかなあ」
「彼女は介助用アンドロイドですからねえ…」
 介助用だからこそ、限りなく人間に近い存在として造形されAIもプログラミングされているものである。その上で、人間には不可能に近い事も可能なように設定されている。特にホロンは介助用としては最高レベルのアンドロイドだった。人間の邪魔にならないように気配を消し去り、いざと言う時には早急に手助けをする。自立型介助としては最適の行動を取る事が出来る。
 更に、ホロンは波留との付き合いも1年以上となり、彼の趣向も理解していた。アイランドでの当初から文句のつけようもない介助をしてきていたが、今ではそれ以上の状況である。
 どう考えても、介助が本職ではないミナモと比較する方が間違っているように、波留には思えた。



 熱い息をつき、波留は話を振る。
「洗濯物、どうなりました?」
「あ…」
 この人工島の家電製品の御多分に漏れず、この住居の洗濯機も全自動式である。洗濯物のある程度の分類は必要だが、それさえこなしてドラムに放り込んでしまえば、後は水や洗剤が注入されて洗濯脱水乾燥まで全自動で行われるものだった。
 ミナモは少し考えた後に、答えた。
「そろそろ終わってるかも」
「なら、取り込んで来てはどうでしょう」
「うん…」
 ミナモとしては、おそらくこれは波留が仕事を与えてくれているのだと判っていた。席を外してもいい口実を用意してくれたのだと。
 彼女は片手で波留の額の上のタオルを取り上げた。それは水気と共に、生暖かい熱を持っている。外したついでに、そのタオルで肌や髪に含まれた水分を少し拭き取る。が、タオルを強く押すとそこからまた水滴が垂れてきた。
 波留は瞼を伏せてされるがままになっていたが、タオルの感触が顔から離れていったのを感じて眼を開く。耳は水音を拾う。ミナモがタオルを洗面器に浸け、軽く濯いでいた。水音に、氷が軽くぶつかる音が混ざる。
 そしてミナモはタオルを絞った。今回は、割と堅く絞ったらしく、タオルが結構捻られている。その先から水が滴り落ち、それもやがて止まった。
 タオルを折り畳み、皺を伸ばす。それを波留の額を覆うように再び置いた。ひんやりとした感覚が再び彼の額や目許を覆う。
「波留さん、洗濯物取り込んだらすぐに戻ってくるね」
「はい、お願いします…」
 掠れた小さな声が波留の口許から発せられた。少女の足音が彼のベッドサイドから離れてゆく。室内に沈黙が下りた。空調の音だけが微かに聴こえてくる。そこに、彼が口で呼吸する音が混ざり、若干やかましく感じられた。
 少し鼻を啜ると息が通って楽になる。が、そのうちにまた詰まるだろうと彼は思った。
 他にも、額や目許が冷たくて楽なうちに眠ってしまおうと考える。朝ほど酷い頭痛はしないので、瞼を伏せて身体から力を抜いていたら大丈夫なようだった。



 10分もしないうちに、ミナモは波留の寝室に戻って来ていた。
 彼女は手ぶらで戻ってくる事はしていない。次の機会のための着替え一式や、波留が目覚めた時のための補充済みのドリンクボトルを抱えて戻ってきている。それは介助と言うよりも気遣いのレベルだった。
 それらの荷物をベッドサイトのテーブルに置き、ミナモは波留の傍に戻り、顔を覗き込む。タオルで額や目許を覆っていたが、どうやら彼は眠っているらしいと判断する。薄く開いた口許から立っているのは寝息らしかった。
 眠っているうちに少し身体が動いたらしく、毛布がまたずれている。ミナモはその縁を持ち上げて、再び肩まで掛けて覆ってやった。健康である彼女にとって、現在の気温で毛布に触れると少し暑さを感じる。
 ミナモはベッドサイドに視線をやる。先程の棚に手を突っ込み、次の薬剤のケースがあるかどうか確認する。果たしてそれは見付かる。どうやらホロンは1日分を最初に準備してくれているらしい。
 棚に立て掛けられるように置いてあるハードカバーの紙媒体の本がミナモの目に入る。最近波留が読み続けている本だと、彼女は知っていた。彼女はそれを手に取った。
 海なのか空なのか、鮮やかな蒼の表紙が眩しい。本文には栞が挟まれており、本を開くと自然とそのページに行き着く。横書きの小さな文字が彼女の目に入った。
 が、脳がそれについていかない。どう見ても日本語ではなく、アルファベット系列の外国語で書かれた書籍だったからだった。しかも、オーストラリア育ちが長かったために彼女に馴染みがある英語でもなかったので、単なる中学生であるミナモはそれを読む事を諦めた。
 ――波留さん、こんなの読めるんだ。紙媒体だからメタルで一括翻訳も出来ないだろうし、辞書機能使ってるかもしれないけどある程度はこの言葉が判ってるんだ。
 波留さんって、本当に頭いいんだ。ミナモは本を閉じつつ、そんな単純な感想を抱いていた。そしてそのまま、本を元あった場所に戻した。



 ミナモは片手を波留の額に伸ばす。ずれ落ちそうになっている額のタオルを摘み上げた。それはすっかり熱を帯びていて、ぬるい状態になっている。そこに掌を当てるとやはり熱いままだった。吸い付く掌に汗と水分と熱とを感じる。
 彼女はタオルを洗面器の中に突っ込んだ。中の氷は先程よりは溶けていたが、まだまだ水は冷たい。タオルが水を吸って解けてゆくと、含んでいた熱も水の中に溶けてゆく。
 手元では氷水がぶつかり合うざかざかと言う音を立てつつ、ミナモは波留の顔を見ていた。部屋の灯りを最小限まで落とし、カーテンやブラインドを閉めているせいか、妙にその眼窩が落ち窪んで見える。元々が白い肌のせいか、顔色も良くはない。
 ――本当だったら、こう言う事をするために私は波留さんに会ったのにね。
 彼女はふと、そんな事を思う。しかしそれだけの関係ならば、介助実習の日数である3日間で終了しているはずだった。人間の関係とはどう転がってゆくのか、全く判らない。
 つい、濡らし続けているタオルから意識が離れた。彼女はそれを離し、洗面器に漬け込む格好になる。そして彼女はベッドサイドに歩み寄り、膝を着いて座り込んだ。ベッドに顎や肘をつけて波留を覗き込む。
 今まで氷水の中に浸けていた手の指は冷たくかじかんでいる。彼女は右手を伸ばし、波留の額に触れた。人差し指と中指の先が、彼に押し当てられる。彼女の冷たい指先に熱が伝わってきた。凍えが徐々に溶けてゆく。
 ――仮にアイランドの変電所が融解するなどと言う騒動がなくても、波留さんとの付き合いは楽しいものになったと思う。3日間で別れるなんて勿体無いと思う程に。
「――だから」
 不意に、言葉と言う形で彼女の口から想いがついて出てくる。冷たい右手の掌全てを、波留の額に押し付けていた。
「これからも、元気でいて欲しいなあ――」
 ミナモは目を細め、囁くように言い募っていた。彼女の直近に波留の顔がある。彼は静かに眠り続けていた。



 それから程無くしてホロンが帰宅してきた。
 ミナモは今までに波留がやった事――服を着替えた事、普段の薬を1回分飲んだ事、水分補給をした事などを、介助用アンドロイドに報告して引継ぎを行う。やはり本職に任せるべきだと中学生の彼女は思うし、いくら波留が風邪とは言え泊まり込みで看病も出来ない身分だった。
 明日になっても熱が下がらなければ、諦めて病院に連れて行く事でふたりの意見は一致する。もっとも、只の風邪ならばそんな事にはなりそうになかった。しかし高齢と言う事もあり、用心は必要である。
 そう言う話をしているうちに、夕方になっている。日が暮れる前にミナモは帰宅する事とした。玄関先までやってきたホロンと最後の会話を交わす。
「――じゃあ、ホロンさん。波留さんを宜しくね」
「はい。ミナモ様もお元気で」
 お互いに笑顔で挨拶する。そしてミナモはいつものように元気一杯に片手を突き上げ、ホロンに大きくその腕を振ってみせた。
 彼女は大きな足取りで歩き始める。その速度はどんどん速まってゆく。大きな鞄が揺れている。



 明日も会える。――きっと必ず。
 波留さんと会えない日が来るなんて、今の私には思えない。
 私はそう信じている。
 
 SSにしては長いなあ。かと言って通常小説みたいにページ分割するには短いか。中途半端だ。

 本当はもっとパラレルちっくに暗い話になる予定でした。けど、本編準拠で明るくしてみた。
 ええ、13話が怖いんですよ。波留とミナモの関係がどうなるのか、12話見た後からすげー怖いんですよ。俺的には、まるで蝋燭が消える前の一瞬の煌きみたいな印象のSSですよ。

 と言う訳で、吐き出した訳です。

 普段から波留さん色々薬飲んでるだろうなあと思います。そう言うお年頃ですし。
 そしてミナモもこの位の事は出来てると思います。介助実習やりに来たんですし。そして彼女は授業とか結構真面目に受けようとしてますし(読書感想文書く時も、賞狙う位だしな)。きちんと学んでるんじゃないでしょうか。

 あー今晩の13話が怖い。GyaO組なので水曜になっちゃいますが。

08/07/01

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