ティータイム - inclination -
「――波留さんと久島さんってどんな風に出会ったの?」
「…どうしましたいきなり。ミナモさん」
「だって興味あるもん」
「うーん…そんなに期待一杯の眼差しで見られても…そんなに面白い事はありませんよ」
「いいから教えて教えて!」
「はあ。――僕も彼も、同じ電理研の人間だっただけですよ」
「…え?波留さん、電理研の人だったの!?」
「そうですよ」
「電理研ってそんなに昔からあるの?…あれ?波留さんの若い頃には、まだ人工島ってないよね?」
「設立当初の電理研は、日本の独立行政法人だったんですよ」
「どくりつぎょーせーほーじん?」
「…えーと…物凄く簡単かつ乱暴に言うと、政府機関みたいなものです」
「じゃあ久島さんと波留さんって、本当に凄い人なんだ。政府機関なんて所に居たんだから」
「視線が眩しいんですが…まあ、僕はともかく、久島の能力は凄いものでしたね。それは現在の彼を見ても良く判るでしょう」
「でも波留さんも凄いって!…でも、それって、波留さんも眉間に皺寄せて試験管振ってたって事?」
「…まあ、確かに僕ら海洋学者も、水質調査などでは試験管使いますが」
「何か意外だな。久島さんと同じ事やってたなんて」
「彼と僕はその、初期の電理研設立時に招集された同期なんですよ。僕らの出会いなんてそんなもので、特別な事なんてありません」
「ふーん…――あ、波留さん。このケーキ一口食べる?」
「申し訳ありませんから、お構いなく」
「いいからいいから。はい」
「…折角切り分けて頂いたのだから、頂きましょうか」
「うん。どうぞ!」
「頂きますね」
「………で、波留さんと久島さんってどんな風に付き合ってたの?」
「仕事が忙しかったので終日顔を突き合わせてましたが、特に面白いような事はありませんよ。何だかんだで部署の全員とそれなりに仲良かったですし。僕も彼も」
「ふーん。写真でもそんな感じだったよね」
「………ああ、コーヒーか」
「ん?何?そのカップがどうかした?」
「いや、これではなくて…――我々研究者って、何故かコーヒーばっかり飲むものなのですよね。大抵の研究室にコーヒーメイカー常備ですし」
「ああ、そういうイメージある」
「でも僕達の部署には、それに合わせて電動ケトルとお茶用ポットも揃っていました。茶葉も色々ありましたね」
「へー珍しい」
「全て、久島のせいなんですけどね」
「…え?」
「久島はコーヒーが嫌いで、紅茶が好きなんですよ」
「…嘘、意外!」
「そうですか?」
「うん、久島さんこそ、煮詰まったコーヒー飲んで顔歪めてるタイプだと思ってた」
「何ですかそれは。――まあともかく、久島のために僕が色々淹れてやったもので…」
「――ちょっと待って」
「はい?」
「何で波留さんが?お茶汲みの女の子とか居ないの?」
「ああ…色々あって、最初に彼に紅茶を淹れてやったのが僕だったので、そのままずるずると」
「波留さん、ソウタやホロンさんみたいに…あんな風にお茶淹れてたの?」
「ええ。前の職場で、本場の国の人達に教わったのですよ」
「それも意外かも。波留さん、今も紅茶の方を良く飲んでるよね。波留さんも紅茶好きなの?でもたまにコーヒーも飲むよね?」
「僕は特に拘りもなく、どちらも美味しく頂くタイプだったのですが…久島だけのために1杯の紅茶を淹れるのも面倒なので、一緒に自分の分も淹れてましたね。そうして行くと紅茶に馴染んで行くもので」
「ふーん」
「それに、久島にもそのうちにコーヒーを淹れて飲ませてやりましたよ」
「え、久島さん、大丈夫だったの?」
「人が飲んでいるコーヒーに対して無粋な泥水とか言われ続けると流石に厭な気分になりましたので、少々気合を入れて豆を選択して、マイルドになるようにブレンドして淹れてやりましたよ」
「それでそれで?」
「その時には、飲めない事はないなと言われましたっけ」
「それって遠回しに認めてるって事だよね。凄い凄い」
「まあそんな風に、僕と彼とはお茶で縁が繋がってましたね」
「茶飲み友達って訳かあ。――でも久島さんの気持ちも判るなあ。私もコーヒー苦手だもん」
「コーヒーが苦手な人はあの苦味が駄目らしいですね」
「そうそう!同い歳なのにサヤカは良く平気で飲めるなあって思うよ」
「まあ、中学生ならばお嫌いでも仕方ないのでは?…でも、あの当時の久島は27歳でしたっけねえ」
「あはは、じゃあ私、まだまだ飲めなくてもいいんだ」
「そうなってしまいますねえ…」
「でも、波留さんに今度お茶とかコーヒーとか淹れて貰いたいな」
「では今度やってみましょうか。ソウタ君やホロンには何事かと思われるでしょうが」
「大丈夫だよ。波留さんならきっとソウタより旨いお茶を淹れるから」
「それはそれは。僕は高レベルな戦いを強いられますね…」



「――…それではそろそろ戻りましょうか」
「そうだね。あんまり留守にしてても駄目だろうし」
「ケーキ美味しかったですね。コーヒーも僕の好みです」
「うん。紅茶も美味しかったよ。――この事務所の近所にいいオープンカフェが出来たって訊いてたから、早く行こうと思ってたんだ」
「たまにはこう言う場所に外出するのもいいものですね」
「今度また、ここでお茶する?」
「そうしましょうか」
「それじゃ、今日はひとまず、事務所に出発進行ー!」  
 事務所でお茶してると見せかけて、実は外出してオープンカフェでデート状態。これ位の事はやってそうなのがハルにゃもクォリティ。
 ちなみに状況を整理しますと、ミナモがケーキと紅茶を頼んでて、波留はコーヒーでした。途中でミナモが自分のケーキを一口切り分けて波留にあげてると言う訳です。
 15話でミナモは久島に「波留さんが久島さんの事、茶飲み友達って言ってた」とか言いますよね。
 って事は、以前にミナモは波留に「久島さんとはどういう関係なの?」とか訊いたって事だよな…。それがこれを書いた動機です。あっさりですが。

 会話文のみで話を進めてみました。描写を一切挿入出来ないのはなかなか難しい。
 こう言う過去の話は描きたかったのですが、今回はこう言う風に回想話としておきました。
 波留さんは買い出しに出かけたら何故か茶葉の缶を漁ってたり、それを経費で落とせるか経理の子とちょっと揉めたりしてそうです。そして美味しいお茶の淹れ方を、事務の女の子とかに伝授してあげたり。でも久島は「やはりお前が淹れた茶が飲みたい」と、すっかり餌付けされていて…そんな感じです。

08/08/26

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