…何だか体が重い。
 僕は目を覚ました時に、まずそう感じた。
 随分と長く眠っていたような気がする。僕はゆっくりを瞼を開け――て、どうして僕はこんな所に居るんだっけ?判らない。覚えていない。
 うっすらと開いた瞼の向こうは、薄暗い。体の所々には衣服越しにちくちく刺さるような痛痒い感触がして、鼻からは泥と草の交じり合った特有の香りがする。――草むら?そこで僕は寝ていた?
 体を起こしつつ顔を振ると、髪からぱさぱさと落ちるモノがある。土や草や花の欠片らしい。僕の前髪が目の前に垂れてきて、その向こうからそれらの細かい破片が落ちていく。普段の僕からは全く想像がつかない状況だ。
 …いや。だから、僕はどうしてこんな事に?僕は草むらの中で上体だけ起こした。そのまま腕を突いて、足を支えて立ち上がろうと――。
 ――酷く痛い。
 体重をかけようとした、左足が激痛を訴えた。足首だ。僕は自分の顔が歪むのが判る。足首を動かさないように気を遣いつつ、膝を立てた。引き摺るようにして足を自分の前に持ってきて、足を投げ出して座り込むような姿勢を取る。
 僕の足は長ズボンと靴に守られてはいるが、それらは土や草で汚れている。おそらく僕が倒れた時――そう、倒れたんだ。寝てたんじゃない――、その弾みで足首を捻ったのだろう。
 それを自覚すると、足首がずきずきと鈍い痛みを発し始める。気付かないうちには痛みを覚えなかったのに。靴を履いたままだから患部が良く判らない。僕はそっと靴に手を伸ばしてみるが、靴に触れた瞬間に激痛が走る。僅かな振動が足首に伝わったらしい。その僅かな振動ですら、僕の足には響いてしまうらしい。
 駄目だ。これでは歩けない。じゃあどうする?そもそも僕はどうしてこんな所に倒れていた?僕はそれを思い出そうとした。
 ふと、視界に違和感を覚えた。そして、顔にも何か触れているような――何だろう。僕は顔に手を触れさせた。指先の、土で汚れた感触が頬に伝わる。そのまま顔全体を撫で回そうとして――気付いた。
 僕の顔には包帯が巻かれている。
 はっとして僕は、顔に触れる手の力を増した。包帯の位置を確かめるように、しっかりと顔に触れていく。包帯の隅の方から、中心に向かうに従って何回も巻かれて厚みが増していく。そして傷口があるらしい、ガーゼが硬く当てられている箇所――。
 それこそが、僕の違和感の正体だった。だから、視界の感覚が何処となく変だったんだ。
 僕の右目は、ガーゼと厚い包帯によって塞がれていた。
 こんな風に処置されているって事は、僕は右目かその付近を怪我しているのか?こんなにもガードされているのだから、結膜炎とかそんな軽い病気じゃないだろう…。
 でも、僕には何の覚えもない。痛みも今の所は全く感じない。もっとも、今は左足首が酷く痛むから、他の場所の痛覚が麻痺しているのかも知れない。そうでなければ、その左足首と同様に、傷を自覚した今から右目の辺りが痛くなるのかも――。
 僕は意識して右目を開こうとしてみる。しかし、どうも開いた感触はしない。余程ガーゼが密着して貼り付けられていて瞼すら自由にならないのか、或いは右目は既に僕の意識下に置かれていないか――。

まあ。綺麗な花。本当にいい子ね。
でも――私達の可愛い息子なのに、お前の右目はどうして黒いのかしら?



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