魔術師の葬儀も終わり、イゼルローン共和政府が成立して数週間が過ぎた。多数の離脱者もあったが、残存者の統率の必要性もあり、首脳部の多忙さは以前から変わる事はない。
「――あの」
ユリアン・ミンツ司令がふと口を開いたのも、馴染みの面々が団欒室に集合して休息をしていたからである。魔術師健在の頃の和みを思い出したのかもしれない。――このメンバーの前ならば、他愛のない事を口にしてもいいだろうと、そう感じたのだろう。
「…帝国軍のロイエンタール提督とミッターマイヤー提督って、どっちが強いんでしょう?」
それは確かに他愛のない前提ではあった。
しかし「帝国軍の双璧が相討てば、どちらが勝つか」と言う問題提議は、帝国や旧同盟の人間なら軍人ならずともやってしまう事であった。そのため、この場に居る面々もその問題定義に乗ってくる。
「――そりゃやっぱり疾風ウォルフじゃないのか?通り名まで持ってんだぜ」
最初に、気楽そうな口調で意見を言ったのはオリビエ・ポプラン中佐だった。俺も通り名を持っているからな、とは言い出さない。「撃墜王」がそんな事を言い出したなら、おそらくは他の人間に突っ込まれて茶化された事だろう。
「何言ってんだお前。ロイエンタール提督には以前こっぴどくやられただろ」
そのポプランの隣に居たダスティ・アッテンボロー中将がそう口を挟む。コーヒー入りの紙コップを手にしたまま、ポプランを指差している。現状、ポプランを茶化す相手と言えば第一に彼である。
「あの時やられたのはアッテンボロー中将達でしょうが。俺は無傷ですから」
「そりゃロイエンタール提督が空挺部隊投入させる暇与えてくれなかったからだろーが。お前の部隊、出撃してないんだからそら戦死者も出ないわな」
「確かにつまらん戦いでしたが、ともかく俺には被害はありませんでしたもん」
「あのなあ、そういうのを屁理屈って言うんだ」
他愛のない話題から、更に他愛のない口論が始まる。互いに身振り手振りのオーバーアクションで、緑色の頭と橙色の頭があわただしく揺れていた。それを眺めるユリアンの視線は楽しげなものになっている。普段と変わらないなあと奇妙な和みを感じていた。
「――まあ、疾風と言われるミッターマイヤー提督が先手を取れたら、ヤン提督すら悩ませたロイエンタール提督も勝てんかもな」
その場を結論付けるように、ワルター・フォン・シェーンコップ中将が口を開いた。この面々の中では一番年長であり戦場での経験も長い。口調と雰囲気はこのような状況だが、内心ではユリアン以下は彼を尊重している。
彼が取りまとめたおかげで、この時点での団欒室での問答は終結した。
しかし、この問題提議は至極純粋なものだけあって、他の共和政府の軍人達にも伝わったようだ。この共和政府にいる軍人は大抵新旧帝国と戦ってきた人間であり、「帝国軍の双璧」はある意味馴染みの客だった。そのため、この問題提議に付き合うだけの前提は彼らの中に根付いている。
「どうなんだ実際」
「ロイエンタール元帥は実績を買われたからこそ、新領土総督に任命されたんだろ?つまり皇帝からはミッターマイヤー元帥よりも重用されてるってことだ」
「…おいお前ら、フェザーンを電撃占領したミッターマイヤーの艦隊運用スピードを知らんのか?本気でアレかまされたら多分誰も勝てんぞ。…そりゃあヤン提督なら判らんだろうけど?」
「アレは敵と戦う前に本拠を失陥させるって役目だろ?ああいう速攻は彼の本領かもしれんが、いよいよ敵艦隊とガチ勝負する事になったら、ミッターマイヤー艦隊は意外に脆いかも知れんぞ」
「どこぞの猪じゃあるまいに、正面決戦で脆い艦隊運用しか出来ない奴が軍事の要職なんかにつけるかよ」
以上の会話抜粋の通り、意見は平行線である。そのうち誰が言い出したのか「対戦カード組めよ」と言う話題にまで発展している。それほどまでに共和政府の誰もが、答えが知りたい問題だったのかもしれない。
1週間も経たないうちに、ハイネセンの電脳ネット上でも、似たような話題で盛り上がっていた。誰が問題提議を行ったのかを特定するにはあまりにも同時多発的な問題提議だったために発信源の特定は難しかった。イゼルローン内での一部の噂では、アッテンボロー中将の仕業であるとも囁かれているが、真相は闇の中である。
ともあれ、ネット上を騒がせている噂は総督府の知れる所となる。
以下続く。不定期連載「双璧祭り」。元ネタは鋼の錬金術師の外伝で、元々8月末に絵板に投稿した奴を膨らませてるだけです。但しあの投稿物と展開は大幅に違えるつもりですが。
今後は豪快なパラレルになりますので(大体ロイエンタールが総督なのにミッターマイヤーとシミュレーション勝負するような交流持てるなら、ディスコミュニケーションが積み重なった挙句である原作の展開はあり得ません)、そういうのが嫌いな人はこれ以降の連載は読まない方がいいと思います。
ちなみにアッテンボローはネット上での煽り合いも好きなんだろうなと思います。
良く考えたらイゼルローンから電脳ネットに繋げる状況なら、コーネフ船長が頑張って情報持ってこなくてもいいんじゃないかなーと思わないでもないんですが…ネット自体がそんなに発達してないのかもしれないな。
後、大っぴらにサイト立ち上げてアジったりしてたら、帝国側から回線切られるかもしれないし。あくまでも足跡気付かれないようにこっそりとネットするだけなんだろうな。
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