被保護者と養子と
 僕がミッターマイヤー家の一員となって、もう2年になる。

 不思議な家庭と言うものはこの広い銀河系に少なからず存在するものだ。この家に住んでいるのは4名。両親と、子供ふたり。構成人員は、普通の一般家庭と比較しても珍しいモノではないだろう。
 しかし、その中で血が繋がっている人間はひとりとして居ない。僕達を繋げているのは紛れもない愛情――とまあ、この奇妙な家庭を表現しようとすると、何だか陳腐な表現になってしまう。

 今、僕の目の前では、僕より10歳以上年下の幼児が落書きをしている。2年前の時点では、まさか「弟」が出来るとは思ってもみなかった…。
 いや、そもそも僕がここに居る事自体が、不思議な事なのだ。

 第二次ランテマリオ会戦――との呼び方は、かなり聞こえがいい。その実態は、新領土総督の挙兵による叛乱だった。単純に「叛乱」として片付けられないのは多分、この戦いに参加した双方の間には心情的に和解が成立しているからだろう。やむを得ない事情があったのだ、叛乱を起こしたにせよ総督は御立派な最期を遂げられた――と。
 僕はその叛乱を起こした側、総督の従卒としてこの戦いに関わる事となった。そして敗走してハイネセンに戻った総督、ロイエンタール元帥の最期を看取ることとなった。
 この一件に関してはもう、僕はあの場で見た事聞いた事を語り尽くしてしまったので、今更話題を提供するつもりはない。大体僕にはその資格もないと思っている。僕は只従卒としてその場に居合わせただけ。本来なら自決されたベルゲングリューン大将や――それこそミッターマイヤー元帥が看取って然るべき事だった。

 僕はその際、女性から赤子を預けられた。綺麗で気品がある女性。しかし何かに対して焦燥を抱いているかのような態度。
 ――この子をウォルフガング・ミッターマイヤー元帥に預けなさい。
 そう言って彼女は僕に赤子を押し付けた。そしてどこかに行ってしまった。
 普通に僕を見下すような態度から、おそらくは彼女が貴族だったのだと判断する。しかし僕は悪い気はしなかった。只、戸惑うばかりだった。だから、ロイエンタール元帥に判断を仰いだ。そうしたら、元帥も同じ事を僕に頼まれた。
 この子が一体何者なのか。僕には見当もつかないまま、女性は去りロイエンタール元帥は亡くなられた。そしてミッターマイヤー元帥に言付けを伝えると、彼はそれ以上何も訊かずにこの子を引き取った。
 おそらくは彼はこの子がどんな出自なのか、この時点でもう判っていたのだろう。そして僕も現在では何とはなしに、判ったような気もする。

 ミッターマイヤー家に引き取られたこの子は、フェリックスと言う名前を戴いた。
 耳慣れない名前に、僕はそれを幼年学校の図書館で調べてみた。どうやら太古の言語で「幸福」と言う意味合いらしい。名付け親は元帥ではなくエヴァンゼリン様――僕達の母上だったようだ。

 話は前後するが、僕もこの赤子を抱いてミッターマイヤー元帥の艦隊旗艦「人狼」に搭乗してフェザーンに帰還する事となった。
 僕はてっきり、この子の世話を頼まれただけだと思っていた。フェザーン帰還後はミッターマイヤー家にこの子は引き取られるとしても、ひとまずこの子を預けられたのは僕なのだ。それに旗艦内でこの子の面倒を看られるような人は多分いない訳で…旧同盟なら女性士官も居るって話だから、また違ったんだろうけど。

 そうしたら、元帥の執務室に呼び出されて、元帥が言い出したのは「君も私の家に来ないか」と言う台詞だった。
 僕は当初、元帥が僕に対して何を要求しているのか全く判らなかった。僕は確かに歳若いしこの戦いで両親を亡くしたが、それでも既に幼年学校生だ。寄宿舎から通う限り、特に生活には困らないだろう。そしてそのまま士官学校に進むつもりだった。
 僕はその旨を元帥にお伝えして、固辞するつもりだった。これ以上迷惑はおかけしたくはなかった。――迷惑?迷惑って何だろう。僕はそうも思ったけれど。

 僕の考えを訊いた元帥は、少し笑った。そして僕にこう言った。

「子供には両親が必要だ」

 多分、それが全ての始まりだった。
 僕はその言葉に何故か目頭が熱くなり、そして自らの意見を撤回した。
 その時、僕の腕の中で、後にフェリックスと名付けられる赤子が、少し笑ったような気もした。

 おそらく元帥には大して深いお考えもなかったのだ。
 只、自分の目の前に両親を亡くした子が居たから――只それだけの理由で僕を引き取ったのだと思う。フェリックスの存在、そしてロイエンタール元帥の存在も少しは影響しているのかもしれないけど。
 しかし、僕にはそれで充分だった。僕は最期の時までこの元帥――この両元帥に、忠誠を誓う事となると予感した。そして僕はここにいる。
 挿絵はこちら

 ハインリッヒ・ランベルツ君とフェリックス・ミッターマイヤー君。
 …すんませんフェリ坊殆どオリジナル状態です。アニメのラストから2年位経ってる状況でしょうかねこの育ち具合は。この絵にはそのうちSSつけようと思う。

 結果的にオリジナル状態になってしまったけど一応、フェリ坊育ったらどんなんなるんだろうと思いながら最終話のビデオ見直したんですが、全然判らんかったです。と言うかふぁーたー如きしかまともな台詞がないってのに、声優さんがきちんとついてた事に気付いてびっくり。
 まだまだ幼児である事を差し引いても、髪は結構きついくせっ毛っぽいですね。この辺はエルフリーデに似たな。顔が子供の頃のロイエンタールなのに、育ての両親の影響で物凄い爽やかな笑顔とかされたらどうしようかと思ったんですが、結構母親の血も濃いようなので助かりました。

 …いや、あの母親似の顔でも爽やかに笑われたら、それはそれで怖いんだが。結局生みの両親からそれぞれ似てる部分を取ってきてるので、合わせて考えたらあんまり似てなさそうです。
 育って士官学校入った頃に、ふとした仕草が父親に似てきてるのに気付いたミッターマイヤーがちょっとびっくりしてみたりするんだろうか。あの父親の子だから、ミッターマイヤーの身長はあっさり追い抜きそうだなあ。

 ランベルツ君もついでに引き取った訳だけど、彼は既に幼年学校生だし。士官学校入ったら確実に寮生活だから大して生活困らんだろうな。一人前への道はまっしぐら。
 結局は「そこに丁度両親亡くした子が居たから力になってあげた」みたいな感じなんだろうな。喰うのには困らなくても独り立ちする前には法律的に両親が居る居ないでは立場上大違いだろうし。帝国はあんまり福祉発達してなさそうなので、今後の帝国中枢の連中はその辺の援助は結構やるかもしれんなあと感じた。今まで戦争やってきた罪滅ぼしって言ったら変だけど。

 それ以前に「被保護者」と言う制度がよく判ってないんですけど。ある未成年を養育する代わりに養育費を貰えるって事か?養子とは違って自分の子供にする訳じゃないけど、法律上は親代わりになる(けど、完璧に「親」ではない)って解釈でいいんだろうか。
 ユリアンはヤン提督を「お父さん」とは呼ばないけど、それは彼の性格なのかそれとも制度上「父親」ではないからなのか。どっちなんだろうな。

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