双璧ポーカー
 …私がファーレンハイト提督に(予定通り)大敗した後の対戦は、ミッターマイヤー提督とビッテンフェルト提督だった。
 これは素人目にも非常に見応えがあるゲーム内容で、勝者は僅差でビッテンフェルト提督だった。彼は盤面のちょっとした隙を見逃さなかったのだ。この隙を突かれた事実に当のミッターマイヤー提督も気付くまでかなりの時間を要し、気付いた時には微細な出血を強いられており、それが勝負の決定打となった。周りで見ていた諸提督の反応を見る限りでは、他の人間も全く気付かなかった隙だったようだ。やはり彼は侮れない。
「お遊びとは言え、疾風ウォルフに勝てるとは気持ちがいいものだな」
 勝者はそう言って豪快に笑い、敗者は苦笑いでそれを迎えた。

 そんな風に提督が全員揃ってやり合う日も少なくなりつつある今日この頃。やはり我々も出世したもので、日々の業務が忙しいためだった。平時であっても視察などで宇宙に飛ぶ提督も多いのだ。皆が皆デスクワークに勤しんでいる訳ではない。
 そんな昼間にふと、廊下でロイエンタール提督を見かけたのだ。その手にポットが握られているのには、正直不釣合いのように思われた。
「どうされたんですか?」
「ああ、これか?――今から小一時間、ミッターマイヤーとポーカーをやるのでな」
 私の疑問を禁じえない声と視線の先に気付いたか、彼は手に持つポットを軽く掲げて見せて返答した。昼の休憩時間にゲームをやって気分転換と言う事か。
 そう言えば。海鷲で私が様々なゲームでもっていじられている間に気付いたのだが。

「――ミッターマイヤー提督とはポーカーしかなさらないんですか?」
 休憩時間中に対戦を行って、終わらせなければならないのだろう。ロイエンタール提督は私に対して軽く応対してからさっさと廊下を歩いて行こうとした。だから、私は彼の歩みを邪魔しないためにも、その背中を追って話を振る。
「ん?」
私の問いに多少興味を惹かれたか。彼は顔を振り向かせた。歩みの速度が少し緩められる。
「おふたりが別の提督を相手にゲームをする姿は拝見するのですが、おふたりの対戦は一向に拝見しませんよ。それこそ三次元チェスなども…」
 もしかしたら私が海鷲に行っていない際に対戦しているのかもしれないが。しかしそこまで私は間が悪い人間なのだろうか?
「…確かにミッターマイヤーとはポーカーしかやらんな」
「どうしてですか?他の提督方とはちゃんとゲームなさってるんですから、お互いルールを知らない訳ではないでしょうに」
「何だ?卿はそんなに俺達の対戦を見て勉強したいのか?」
 心持ち意地の悪い声がする。…ああ、どうせ私は弱いですよ。
「単純な話だ。俺達があの手のゲームで対戦すると、決着がつかんからだ」
「…は?」
「…決着はつくにはつくが、時間がかかり過ぎるのだ。奴とやり合うと、一手毎に10分程度の長考は当たり前になるんだ」
「それは…凄いんですね」
「そんなもの見て楽しいか?そしてやってる方は、時間もだが、エネルギーもかなり使うんだ。そんな対戦、そう気軽に出来るか?」
 ………なら、気軽にやれるようにちょっとは手を抜けばいいのに。
 おそらくは私などに言われたくはない感想を抱いてしまった。多分、どちらともなく真面目に打ち始め、時間と寝食を忘れてしまった事があるのだろう。
 私の沈黙を、会話の終了と捉えたのだろう。ロイエンタール提督は歩みを速めた。私に軽く足止めされた格好になったのだ。早く待ち合わせの部屋に向かいたいのだろう。

「――時間的余裕がないのなら、休日にでもロイエンタール提督の家で対戦なさったらいいのでは?」
 心中の気持ちを整理して、ふと口に出してみた言葉がそれだった。
 その言葉は、独り言と言うには少々大きめの声であり、また、彼の背中をちらりと見て投げかけた代物だった。
 だから聞こえたとは思うのだが…彼は反応を返さずにさっさと歩いていってしまった。私の提案など知った事ではありませんか。
 まあ、仮にミッターマイヤー提督に持ちかけた所で「折角の数少ない休日なのだから、妻と一緒に居たいに決まっているだろう」と断るに決まっていると思う。…おそらくは。
 ………断らなかったとしたら、食料持込で一日かけて飽きる事無く打ち合うのだろうか。それはそれで…まあ。光景を想像してみると、凄いのだろうと思う。その頭脳をもっと別の所に使うか、折角の休日なのだから休めるかにすればいいのにと、自分が持ちかけた話だと言うのに、思ってしまった。
 挿絵はこちら

 「ゲーム名人戦」から続いてしまいました。だからゲーム名人戦絵見ていない方には判らないSSになると思います。ミュラー一人称です。
 と言うか今回の絵と内容が合ってないよ!SS後、ロイエンタールがミッターマイヤーと待ち合わせた部屋にポット持ち込んでポーカーを何回勝負かやってる所ですよ。
 原作ちまちま読んでる訳ですが、本当に酒飲むかポーカーやるかって感じのふたりなので。三次元チェスとかはやってないよなーと思ったので。でも元帥になった後にこんな風に気軽に休憩時間にポーカーやれる状況かなあとも思うのですが。


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