海鷲ゲーム名人戦
 電脳を使用したゲームが多い中、このような実在する盤面を使用して行うゲームを今やっているのは、メックリンガー提督の趣味である。
 提督曰く「西暦が地球を支配していた頃のゲームの復刻版」と言う事らしい。流石にその当時に使用されていた盤面は現在では骨董品や博物館展示物の域であり、ゲームに使用する事は出来ない。だからと言って「復刻版」は市販ベースに乗る程製作されてもいない訳で…結局こんなモノを海鷲に持ち込んだメックリンガー提督は、「芸術家提督」の異名に恥じないと言う事だ。

 私はこのゲームが苦手だった。
 と言うか、卓上ゲーム自体が苦手だったりする。現在ポピュラーなゲームである三次元チェスですらあまり聞かせたくない戦績なのだ。…聴く所によると、かのヤン・ウェンリーも三次元チェスは苦手と言う事なのだから、実際の戦略眼と卓上ゲームの腕は比例しないと言う事なのだろう。しかし、私の現状に対してはあまり慰めになっていない。
 今晩、相手はファーレンハイト提督になる。彼は海鷲に集まる提督方の中では、このゲームの腕前はそこそこと言った風だろうか。元々ゲームに執心するような人間ではないようなので、ルールをメックリンガー提督に訊いてある程度の定石を覚えた程度のようだ。
 それでも私は形勢不利なのだから、自分が情けなくなる。
 ギャラリーも必然的に私の背後に多くなるようだ。私が何を考えて打っているのか、そう言う事を知りたくなるのだろうか…おそらくは「名人」とは逆の意味で。一応考えて打っているつもりなのだが、どうしてこう…。

 私が一手打つ。すると背後のビッテンフェルト提督が微かに声を上げた。…彼は卓上ゲームが苦手だと思う人も多いだろう。が、彼はアレで居て上手いんだこれが。実際の戦略眼と同じく、ゲームの機を読み取る眼に優れているらしい。
 視線だけ後ろに寄越してみると、ロイエンタール提督が冷笑を浮かべている。そして向こうの席についているミッターマイヤー提督は、盤面を見て蜂蜜色の髪を掻き上げている。このふたりにしてみたら、我々の手合いなど「もっとしっかりしろよ」と言いたくなるような状況なのだろう。
「卿が負けたら、俺の飲み代は卿のおごりだぞ」
 差し向かいに座って私の一手を見守ったファーレンハイト提督が微笑して言った。判っていますよ。そう応対しようとした時に彼は私に続けた。
「俺もそこまで上手い手を思いつく訳ではないのだが…そんな俺にとって卿はいいカモだ」
 ……流石にそこまで言われると鼻白んでしまう。それは私の表情にも出てしまうのだろう。しかしもう構うものか。我ながら子供っぽいと思う。

 彼らにとって、私は体のいい…止めた。これ以上言ったら自分でも情けなくなる。
 しかし、私はそれでもいいとも思っている。まあこれが私のキャラクターなのだ。彼らにとっては。そして私はそれも悪くないと思う。嫌ではないと思う。ぎすぎすした関係になるよりかは、かなり良好な関係だ。そして彼らは戦場においては私を一提督、上級大将として相応しい扱いをしてくれるのだから。
 いつ誰がいなくなるか判らない仕事をしている事になるし覚悟は勿論あるが、それでも何時までもこんな風に盤面を眺められる関係が続けられたらいいなとも思っている。
 私は卓上ゲームは苦手だが、この状況を結構楽しんでいる。

 挿絵はこちら

 …実は卓ゲー者なので割合ボードゲームはやってるんですが、バックギャモンは5年程前にちょっとやった程度なので盤面に詳しい突っ込みは入れないで下さい。最近はネットのゲームコンテンツ辺りで簡単に打てるからまたやろうかなあ。

 と言う訳でバックギャモンをやる帝国軍提督の皆様。言語だけではなく生活様式もドイツ式っぽいから、やっぱり飯食った後にはボードゲームやってたりするんでしょうかねと思いつつ描いてみた。
 モノホンの「ゲーム名人戦」(註:89年頃にフジの深夜にやってた卓ゲー番組。最近CSフジテレビ739で再放送終了。正直ハマった)のようにマイナーボードゲームやらそうかと思ったが、資料が見つからんのでメジャーゲームにしましたよ。全員で「モノポリー名人戦」も捨て難かったが。

 ミュラー対ファーレンハイトの構図から決めて、背景で観戦する皆様は適当にがりがり書き足す。この二人で打ったらどんな事になるのやら。
 ちなみに更に背景に座ってるのは三次元チェスやってるアイゼナッハと言う事で宜しく。一番手前の後ろ姿はミッターマイヤーで。
 時間軸はどの辺なのやら…キルヒアイスも描きたかったんだけど、時間軸としてはファーレンハイトと仲良く同居出来ない(はず)だもんな。
 微妙(どころではないが)にデッサン狂ってるのは気にしないで下さい。気にしてたら俺の絵は見れません。ま、たくさん人間描いて楽しかったので個人的には満足です。

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